東京木材問屋協同組合


文苑 随想

日本人 教養 講座 「日本刀」…Japanese Sword…

「♪一家に一本 日本刀♪」
其の7(何んやかんやの鑑定団)番外編

愛三・名 倉 敬 世

 今回は肩の力を抜いて〜いつも抜けていますが,先月号で約束を致してしまいました,近頃の刀剣にまつわる話題を2〜3→4,お届け致しやしょう。

 先ず第一に問合わせが一番多かったのが,4月の末にTV東京(12ch)で放映をされました「開運なんでも鑑定団」の件。私は幸運にもこのTVは見てませんでした。聞くところによりますと「長曾祢,虎徹」の大小が3000万だったとか,そのお陰で「オメエ〜,刀てえのはそんなに高けえのかょ〜」という大変ガラの良い電話が何本か懸って参りました,「生憎,私メはその放送は見て居りやせんでしたので,何とも〜」と申し,何回も同じことを繰り返し説明をする,レコード論評はしなくて済みましたが,後ほど刀友に問合わせたところ,この刀は2振り共に本物で正真が100本に一本しか無いと言われる「虎徹」で間違い無い様でした。そこで「虎徹」とは何ぞや?,と言う事であります。
 虎徹の説明をマトモに致しますと紙数が足りません,よって写真とエピソードを少々。尚,当方までお出掛け下さればジックリと説明をさせて頂きます。(後記,写真参照)

 本名,長曾祢興里◆ながそねおきさと◆。(長曾祢興里入道虎徹は入道名)江戸新刀の代表刀工。生国は彦根(滋賀県),後に越前福井に移り其れから江戸に出て来た,前半は甲冑師で在銘の甲冑がある,為に鉄のこなしが上手で50才を過ぎてから出府して刀鍛冶となる。研究熱心で非凡な切れ味と,見事な彫刻とにより人気を博す,ランクは「最上大業物」。

 今年のNHKの大河ドラマの「新選組」は,どうにもサマにならず見て居られません。局長のミスター近藤が「今宵の虎徹は良く切れたわ…」と申す名台詞が有るハズですが,これには昔より次の様な物語が付随しておりますが,未だに真疑が確定しておりません。
 曰く,近藤が京都に出立する際に,刀屋を呼んで「この度び公儀のご用で京都に参る,ついては,もうチト切れる刀が欲しい,出来れば虎徹が所望だ,探して参れ」と命じた。
 そこで刀屋も必死になって探したが,政情不安な時節でもあり,希代の名刀の虎徹はそう簡単には見つからない,納期はだん〃〃と,迫り,止むをえず当時人気の高くなり始めた,「源清麿」◆みなもときよまろ◆の銘を削り取り「虎徹」と彫り替えて差し出した,近藤さんはこれを持って京都に赴き,禁裏守護の会津藩の下請けとして,ご存じの大活躍をされる訳でござんす。

 ある時,江戸に立ち返った折り,「そうだ,刀屋を呼んで礼を言おう」と思い立って,急きょ刀屋に使いを走らしたところ,刀屋は「ヤバイ!,細工がバレタか」と真っ青になったが,覚悟を決め親戚中を集め水盃◆みずさかずき◆を交わし,豊臣秀吉に小田原に呼びつけられた伊達政宗の如く,白帷子◆しろかたびら◆の死装束を身に纏い出向いた所,案に相違し近藤氏は上機嫌で大いに歓待の上に大枚の褒美まで下げ渡しその労をねぎらった,という逸話がある。
 虎徹は本人が生存中から偽物が出回っており,これ程の名工はザラにはおりませんが,「虎徹を見たら,偽物と思え」と言う格言は正しい,売買には相手の人柄を先に買う事。
 前述の「源清麿」は現在では大出世をして虎徹と同ランク,作品は覇気横溢で評価は幕末では随一,逸話も多く勤皇刀工として人気も高い,切れ味は抜群,「最上大業物」。
 虎徹には首切り浅右衛門(山田浅右衛門),山野加右衛門の裁断名の入った刀が多い。
※この日本刀の切れ味に関する事柄は,後ほど別項を設けてジックリと解説を致します。

 「開運なんでも鑑定団」の中に持ち込まれる「物件」の中では,初期の頃は圧倒的に刀剣,又はその関係のグッツ(鎧,兜,鍔,小道具…小柄,笄,目抜,縁,縁頭,)が多かった様です,そして小道具はともかく刀剣はその殆どが疑物だったとのことです。
 以前この番組で日本画の大家で幽霊を描かせたらピカ一の「丸山応拳」の特集があり,応募してきた絵の持主全員を大型の観光バスに乗せ,京都や大津の鑑定の大家や寺院を廻って真贋の判定をしたのですが,結局,一名のアタリも無く全員ハズレ,その帰りのバスの中で期せずして,「うちの応拳もニセ応拳,お宅の応拳もニセ応拳」と大合唱になった時のことを思い出します。絵画では江戸期は応拳と北斎が圧倒的に疑物が多い。

 刀剣もこの様な状態で,いくら鑑定依頼が来ても,またダメ,これもダメ,これでは様◆さま◆にならず,そのため数の割りに放映が少なかったとの事です,言われて見れば確かにその通りで私の見た物の中でも記憶に残っているのは,森田健作議員の奥さんの実家に伝わったと云う,相州・小田原の「隆広」在銘の短刀がタダの1本,それも価格にしてせいぜい350万,他には備前等の本場でも数打物か地方のグにも付かない駄物ばかり。
…鑑定担当の銀座の「刀剣・柴田」のオヤジ(柴田光男)の「こりぁ弱った」顔の連続。
 大橋巨泉や鑑定団の岩崎紘昌が実家(北海道)から持ってきた大刀もダメでやんした。〜旧家と云っても幕末になって北海道に流れ着いた家はそれ迄にとっくに手バタキ済み。

 真の程は判りませんが名品の出が少ないのは,この番組は欠かさず税務署も見ていて録画にとってチェックしている,とのウワサが流れたから,と云うウワサもございます。
 尚,美術品の相続の評価額は税務署に依頼された専門の業者が参考価格を報告します。この鑑定団の中にも何人かは居ります,刀剣の場合は前述の柴田光男氏がその役です。

 「開運,何でも鑑定団」は番組の性格がバラエティーなので,鑑定員もプロの業者と学芸員の先生と半々でバランスが良く取れております,一番の目玉は司会の島田紳助の特異な金銭感覚ですが,これとて鉄仮面のプロの商売人の我田引水には遠く及びません。
 ここで真贋はともかく,各鑑定員の価格決定のポリシーに付き小考をしてみましょう。

イ.年期の入った「商売人」グループ。
 「岩崎絃昌」通称ムーミンのパパ。専門は西洋アンテーク,宝飾品,時計,陶磁器。昔は平和島流通センターの骨董市(年に4回,次は9月に開催)畳2枚に本人が座ると…昔からデブ,1.5畳の場所に中古時計を目一パイ置いて声を枯らして商売していた,当時は冴えない感じだったが,その後一念発起しヨーロッパに渡り研鑽を積み目を肥し,現今ではこの分野での第一人者となる。性格は真面目で価格決定は適正で信頼度も高い,香具師◆やし◆から紳士に化けた成功例。

 「中島誠之助」通称茶碗屋。高樹町の骨董通り「からくさ堂」店主。染付,陶磁器。鑑定団の中では一番の曲者,三流のチャワン屋を名前だけでも全国的な超ビックにする。チョビ髭と和服で女性の人気ナンバーワン,「〜いい仕事してますネェ〜」のキャッチ・フレ〜ズが見事に当り,しゃべりと物腰は嫋◆たおやか◆だがツボに入った時の目付きは鋭く猛禽が獲物を捕まえた時の眼光である。
 元来,日本には染付けの磁器は腐る程有って,…磁器は腐り様が無いので山程に訂正。どの家にもゴロ〃〃していた,このタダ同然の皿や茶碗に目を付けた誠之助は偉かった。当時,ミカン箱一パイ幾らの染め付けを買えるだけ買い,時期の来るまで塩付けにして,その間に得意な話術で「誰れかが染付けを集めている,そのうち値上り間違い無し」と,それとなく風評を流布して,今度は今迄よりチト値段を上げて買い始めた,こうなると放っておいても価格は勝手にドン〃〃上昇して行く,そこへ「鑑定団」への出演依頼と民芸ブームとフリーマーケットの追風で,とう〃〃天にまで昇ってしまった,のである。

 このブームには「猫茶碗」と云う伏線がある,これはその昔,東北地方で一時栄えた赤絵の陶器…磁器に否ず…が戦後になって,或る研究者の大絶賛を浴びたことがあった。この話がその地方に伝わると,たちまちその赤絵の皿は神棚に鎮座ましますことになり,今迄その皿でメシを食っていたネコがニャンでだー!と驚いた,と云う話である。
 この話とチョビ髭の旦那の話とはどこか共通点が有ると思いませんか,磁器も陶器も世の中には似た様な皿はゴマンと有り,地域限定バージョンとなっては判る者がいない,価格は付け放題で「昔一箱,今一枚」の世界となります,ナンボ儲かると思いますか?,「目あき千人,目くら千人」とは良く云ったものです,何か考えましょうぜ,ご一同。

 ところで,誠之助殿の性格はかなり軽い,軽挑浮薄と云っても良い位である,今では芸能人と同様の感覚となっており,よせば良いのに自分の専門外の分野にも余計な口を出し顰蹙◆ひんしゅく◆をかっている。以前,吉野の歴史ある旅館で展示してある槍を歩き乍ら指差しこれは幾ら,こっちは幾ら,とノ賜った事があり魂消◆たまげ◆た。いくら神様でも手にも執◆と◆らず,鞘も外さず銘も確かめず価格を断定する,それも専門外の槍ですぞ,正にフザケンナの世界であり,これが芸能人特有の驕◆おご◆りと云わずして何と云うべきや,商売人失格である。その時にコリヤ駄目ダ!と思ったが,最近は専門の染付け以外にも勉強が進んでかなり薀蓄◆うんちく◆が語れる様になったが,依然として価格は「ゴミ」でもとんでも無く高唱えである。

 そのゴミの高値の最たる者が,ブリキのオモチャやペコちゃんの北原照久先生である。これらの物が果たしてアンティークなのか,美術品に値するのか,甚だ疑問だが,第一にその高値なる事に驚く,但し,その高値の条件が「箱」を伴う事であり,第二に先生の住んでいる鎌倉だか逗子のお住まい(箱)の綺麗な事である,そこでこの業界の儲けの構図が見えて来るのである,即ち,そのキーポイントは「箱」と「家元」言い替えれば「鑑定家」と云う事である。ブリキの玩具に始まり天下の名物の茶器に至るまで,箱とそこに書かれている「箱書」が富の源泉であり命なのである。裸の茶器はタダの雑器で金にはいつ迄まっても化けないのである。世の東西を問わず家元のサインはVなのだ!

 「柴田光男」銀座すずらん通り「刀剣・柴田」の会長。初代全国刀剣商業組合理事長。
常に満面の笑みを浮かべてニコ〃〃と揉み手をしながら登場するが,根っからの商売人。スタートは研師…刀剣研究の第一人者の藤代義雄の最後の弟子,真偽価格の判定は的確。幼少の頃から業界に入って裏表を見聞,刀剣界の全てに精通をしていて生き字引的存在。このところ「包平」の剣や「虎徹」の大小が出て来て,少々面目を果たし精気が戻る。
 ここ迄は完全なプロ,商売人の世界であり以下の素人・セミプロと根本的に違います。

 「安岡路洋」番組スタート時よりのレギュラーで古民具の大家,埼玉県の文化財委員。
 「大河内真美」新参だがここえ来てかなり場慣れをして来た感じ,日本画が専門だが,浮世絵の評価が未だ少し甘いかいな?。浮世絵の研究は元来は枕絵(春画)より始まる。
 併し,この二人は学研肌で価格に潔癖で常に遠慮がちに評価をしており好感が持てる。チヤワン屋やブリキ屋とは根本的に金銭に対するスタンス…儲けの執念…が違ってます。

 準レギラーでは,古文書の高橋教授,洋画の永井龍之介,紙幣・コインの竹内俊夫,運動員の前野重雄,火縄銃の沢田 平,サンゴの近藤誠治,他にもビックリするようなユニークな鑑定家も出て来ますが,皆さん個性が豊かで一家言あって値付けも的確なり。

 この「鑑定団」と云う番組を見ていて感じるのは,世の中には「掘り出し物」願望が如何に多いかと云う事,これは大変に危険な願望で,これにあまり深入りすると決して良い結果はもたらしません。この思いがあまり強いと自縄自縛に陥いる恐れがあります。
 大体,今の世の中に「掘り出し物」が有り,それを自分が発見発掘する等と云う事は夢にも考え無い方が身の為です。フリーマーケットの1000円台の世界なら別ですが本物の骨董の世界は其れほど甘くありません。特に高額に成れば成る程ヤバイ世界です。有名な「永仁の壷」の様な世界がまだ残っていますので,お気を付けてご入会ください。
※骨董・アンテークの定義は100年以上の物,其より手前は単なる中古品でごわす。

 それとジャンルを定めずに古ければ何でも結構とばかり,手当たり次第に掻き集めてゴッチャにしている方を見かけますが,これも将来悔いを残します,ゲテモノ趣味でも構いませんが下手物はゲテモノで筋を通うして集めるべきでしょう,これはこれで将来何時の日にか陽の目が当る時が来ます,ブリキの玩具などはこの典型的なパターンです。
 普通は2〜3点,集めた物を見れば他は見なくても,このコレクターは本物か偽者か,冗談者か…一種の愉快犯で業者のメシの種,金持ちが圧倒的に多い,プロは瞬時にしてこれらの区別を致します,始めに変な色が付きますと,それから抜け出すのは容易ではありません,やはり勉強(鑑識眼)と信用がランクUPの基本です,財力はその後です。
 では「掘り出し物(者)」との出会いの多からん事を!。 グッド・ラック。

次回は基本に返り,外人に負けない為に用語の解説と「鑑定」のシステムでもやっか〜。




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