東京木材問屋協同組合


文苑 随想

見たり,聞いたり,探ったり No.63


「自然の叡智」
「愛・地球博に行ってみよう」
愛知万博 No. 2(現地報告)

青木行雄


 愛知万博の会場は,長久手会場と瀬戸会場の2つに別かれているが,愛知県所有地の旧愛知青少年公園を活用した(長久手)土地で長久手側158ヘクタール,瀬戸側15ヘクタールの計173ヘクタールの広大な会場であった。
 入場ゲートはメーンの北ゲート,一般の電車(ここではミニモ)路線バス等個人での入場,他に東と西ゲートがあるが西ゲートは団体バスの入場口で,バス下車より約30分かかった。今回,瀬戸会場には行く時間がなかったが,もちろん瀬戸側に入場ゲートはある。合計4ヶ所の入場ゲート。開場時間は4月25日までは朝9:30であったが,これからは9月の閉会時まで朝9:00の開場であり,閉門は夜の10:00である。
 この万博のメーンテーマは前記の「自然の叡智」であり,そしてサブテーマは,(1)「宇宙,生命と情報」,(2)「人生の“わざ”と智恵」,(3)「循環型社会」の3テーマを掲げているが「木材博」とも,つけ加えたい。
 地球の温暖化,石油の枯渇といった地球規模の課題に対し,その答えを模索し,その解決に向けて,世に問う万博でもあると言う。
 環境を守ることの大切さをどう来場者に伝えるか,参加国や企業の多くは,最新技術を駆使し,時代の先端を行く迫力ある映像,華やかなショーで来場者の心をつかみ,その中でそれぞれのメッセージを示そうと苦慮しているようにも見えた。

 今回の万博見学はあるツアーに参加し,東京からバスに乗った。出発時間は朝7:00,東名を通って会場駐車場についたのはAM11:30。前記したが団体バス駐車場から20〜30分かかり西ゲート入口へ。3月25日開場以来,入門チェックの厳しい批判と弁当の持込みに対しては,小泉総理のツルの一声で緩和された。昼頃で入場者も一段落した所でもあったのかチェックは,スムースであり型式的なものだった。
 開場以来,報道によると不人気のような雰囲気が伝わっていたが,私の行った日(土)は約8万人,翌日(日)も約7万人であったと言う。ディズニーランドでは入場制限の人数である。
 西口ゲートの入場時の印象として,なんと従業員の多いことかと思った。聞くとピーク時には2万2千人の要員と聞く,平日,少人数来場者の時4万人ぐらいと言うから,2人に1人の従業員となる,ついでに従業員のことについて記して見ると…。
 大半がアルバイトのようで時間給。しかも東京からの業者の下働きが多いようである。時給800円と言うが,宿泊場所と食事が会社持ちと言うから,パートにしてはこの金額はどうだろうか。警備については,全国の警備会社が組織した協会からの派遣で全国の警備員が会社の都合で会場へ勤務し日数も異なるようである。いろいろ聞いて見ると,異なる集合体が総合して目的を果すよう,(何んでもそうだが)この愛知万博も成り立っていることがよくわかる。

 西口ゲートを入場し,すぐ左側に来場者を歓迎する対話の出来る美人ロボットがいて,会話をした後,エレベーターを利用し,3階の会場に出る,ここ会場は,高低差のある丘陸地で,開発を最低限にとどめるために作られたのが,この空中回廊「グローバル・ループ」である。全長2.6キロメートル,幅21メートル,まだまだ広い所もあれば多少せまい所もあるが,この「グローバル・ループ」がほとんど,木材フローリングで出来ている。今流行の公園用木材,イペやジヤラ等,又日本の間伐材杉・松等も使用していた。どこの木材会社が入荷したかわからないが,手スリや枠側面のイスも入れると相当な量で,外のも入れて床面積だけでも私の計算では,木材使用部が10万平方メートルにも達すると思われる。すごい面積である。これだけでも十分見る価値はあると木材屋の私は思った。
 エレベーターを出て3階の会場がこの「グローバル・ループ」で,正面に巨大な竹かごで覆われた長久手日本館が見えて来た。

 楕円状に設置された,この「グローバル・ループ」は,会場内の企業パビリオンや,6ヶ所の外国政府パビリオン群「グローバル・コモン」などを結ぶ,メーン歩行道路である。この道路には乗り物も用意してあり,くたびれた時は乗る事が出来るが,乗車賃短距離で300〜500円と高いのと待ち時間がかかることが難点である。
 又,人気パビリオンは時間待ちが多く,8万人の入場だと,100分〜200分待ちもけっこうあった。
 2日間(12時間)で3分の1も見られなかったので,全部見るには1週間かかりそうである。
 この万博のメーン展示は,何んて言っても万博協会のパビリオン「グローバル・ハウス」である。その隣接する所に「マンモス・ラボ」があった。
 「マンモス・ラボ」とは「マンモス」の展示室である。
 今月号の現地報告はこの「マンモス」について,詳しく説明しておこう。

 「ユカギル・マンモス」について
 どうして,この愛知万博に展示することになったのか,いろいろ調べて見ると…。
 この「マンモス・ラボ」に展示されているマンモスは,2002年(平成14年)8月,ロシア連邦サハ共和国の首都ヤクーツクから北北東約1200キロメートル離れた北極海近くユカギル村の永久凍土の川辺で発見されたと言う。地元猟師の息子たちが,牙が地表に出ているのを見つけた。この情報を聞いた地元の猟師達が,その年に両牙のある頭部を発掘した。そして,この情報を手に入れた博覧会協会は2003年(平成15年)7月に発掘展示計画を発表。2度にわたる調査で,現場から両前脚やあばら骨,腸の内容物などが掘り出された。現地の少数民族の名前や地名から「ユカギル・マンモス」と名付けたと言うのである。
 そして,ヤクーツク市内で冷凍で保管されていたマンモスは,2004年(平成16年)11月に万博会場へ飛行機で運ぶため,現地で梱包作業が行なわれた。そして,輸送に伴う振動で傷まないように,美術品の梱包を手掛けるあの専門会社が,各部位の形状に合わせて木の枠で固定,10箱に分けて冷凍機能を備えたコンテナに入れた,これを積んだロシアの輸送機は,2004年11月19日にヤクーツク空港を出発,その日に名古屋空港に到着したのである。

 それでは,なぜこのロシア最北端で見つかったのか
 マンモスの体の高さは約3メートル,体重は約6トンもあったと考えられており,シベリアなど,大変寒い所で生きていたため,ほかのゾウには見られないほど長い体の毛で寒さをしのいでいたらしい。1メートルにも及ぶ毛があったのではと言う。ゾウに特徴的な大きな耳は,凍傷になったり,体温がそこから逃げてしまったりする恐れがあるから,マンモスではアフリカゾウの10分の1くらいに小さくなったと言うように,見ると小さくてかわいい耳であった。
 マンモスの主食は草である。シベリアの草原で,毎日数百キログラムもの草を食べていたと言われている。これだけの草を食べるために,マンモスの鼻の先は草を器用に摘み取れるような形になっていたのである。
 マンモスの牙はオスで約2.5メートルもあった。牙はオス同士がメスを巡ってけんかするときや,雪をかき分けて植物を探すときなどに使われたと考えられるらしい。たしかに湾曲に曲った大きな牙は見事と言う外はない。
 そして,巨大な牙はあっても,ほかの動物を襲ったりはしない,草を食べるおとなしい動物であったと考えられるようである。
 そして,マンモスは数十万年前から,ヨーロッパやシベリア,北アメリカなど世界で広く繁栄した,しかし約1万年前になると,マンモスは姿を消してしまったと言う。
 原因は主に2つの説があると記されている。それは,「気候変動説」,このころに気候が変化して,マンモスが生きていた草原がなくなってしまったことが原因とする説。
 「人類狩猟説」はヤリなどを使いこなす人類が次々にマンモスを狩ってしまい絶滅させたと言う説がある。
 最近では,これらの2つの説が重なり合って,マンモスは地球上からいなくなったのではとも考えられていると言う。
 いずれにしても,1万8千年も前のマンモスが,この目で見られる現実はすごい事だと思うし,今後2度と見る事は出来ないだろう。
 皮膚や筋肉,顔に生えている毛,かわいい目,小さくなった耳,巨大な牙,ガラス張りのケース越しのマンモス,2本の動く歩道に乗って,つかの間の見学だが,人により感動の差はあるとして,私は対面する直前の気持はおだやかではなかった。ラボの中では見学者と同時に,実際に研究者が出入りして,マンモスの研究が続けられている。その研究者の様子も時間によって見ることが出来る。何回も言うが,1万8千年前の気の遠くなる大昔前の動物がこの目で今…。
 そっと教えておくが,一番右側に並ぶと一番近く見られる。中では写真はだめでした。「マンモス・ラボ」の入口には日通の冷凍車が音をたててマンモスを冷凍していた。
 研究者の調査内容について,ちょっと触れて見ると…。
 腸の内容物調査や,皮膚組織からDNA解析も試みられていると言うし,多角度の学術調査が競うように進んでいる,遺伝情報が解明されれば,ほかのゾウといつごろ分岐して進化したのかなど,マンモスの進化の過程解明に道が開かれると言う。
 大型のエックス線断層装置(CT)を用いる「画期的な研究手法」を試み,ユカギルマンモスの断面画像を数千枚単位でデータベース化することにも成功したと言う。太古の地球環境とマンモス絶滅の謎を研究していくうえで「宝の山」とも思われる。
 こうしたマンモスが発見されると言うことは,地球温暖化の影響で永久凍土が失われていることにつながることになる。
 生き残った人間が絶滅したマンモスを通して,この愛知・地球博で「地球環境」を少しでも見つめ直すきっかけとなり,自覚が生まれれば,出展の意義があり,現代の人々に「無言のメッセージ」を伝えるチャンスとなろう。だから万博に行って見て,聞いて,探る意義がある。

平成17年4月17日記
 
※「マンモス・ラボ」の内部を冷凍する日通の冷凍車が目にとまる。

※「マンモス・ラボ」の入口,これから,18,000年前のマンモスに会える,緊張した数分前,感動した。

※マンモスに対面して,出て来た人々,動く歩道で,わずか数分である。

※団体バス等の入場者が入る西ゲート,ゲートの下で荷物チェックをおこなわれる。

※大観覧車から見た会場の一部,全部で173ヘクタールある,全部見るのには1週間ぐらいかかりそうである。

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