東京木材問屋協同組合


文苑 随想

見たり,聞いたり,探ったり No.70

明けましてお目出度うございます。
今年も,楽しんで読んで頂けるような話題を書いていきたいと思っています。


水戸の「あんこう」と「テレビ出演」?

青木行雄


 ガラガラと戸が開いて,おかみさんから「今,テレビ局の方達が来て,あんこう鍋の食事風景を撮影したいと言っているのですが,ご協力いただけませんでしょうか?」と,食事が終りかけた頃に言われた。
 「テーブルの上の食べものは,余りありませんがどうしますか?」と答えると,「ちゃんと用意いたします」と言う。それならということで来てもらうことになり,にぎやかに食事風景の撮影が始まった。鍋と言えば,西の「フグ」に東の「あんこう」と言われていると,あんこう鍋の宣伝パンフにも載っていたが,私は西の人間なので,「フグ」を食べる事の方が多い。今日は木場の有志の方々と久方振りに水戸の「山翠」にやって来た。
 さて,上記の撮影の続きだが,鍋にあんこうを入れる所だとか,鍋から取って食べる所だとか,会話のはずむ所だとか,いろいろ注文もあるが,なにしろあんこうは久しぶりの食,ついつい,「このフグ鍋は本当においしい」と言ってしまって,一同,大笑い。あわてて「あんこう」と言いなおす一幕もあって,大童の楽しい食事の一時であった。
 それにしても,2重の料理を食したことになるが,いくらおいしい魚でも,人間の胃は2人分の食を入れる事は並の人には出来ない事がよく分かった。所がこのあんこう,全身胃袋かと思う程の大食漢であると言う。今回はこの「あんこう」について,詳しく記して見たいと思う。

 まず「あんこう」「アンコウ」の漢字は「鮟鱇」と綴る。
 前にも記したが,「東のアンコウ,西のフグ」といわれ,東日本の冬魚はアンコウが代表格であると言う。
 農水省の資料から拾い書きであるが,十月から四月位にかけて水揚げされる,茨城沿岸から福島県小名浜沖にかけてとれるあんこうが最も美味しいといわれている,江戸時代に将軍家に献上されたとも記されており,昔から食されていたのであろう。あんこうにも種類はいろいろあるらしいが,いちばん美味しいのは「ほんあんこう」と言い(ふぐも「ほんふぐ」と言う),準深海魚で150m〜200mぐらいの海底に棲んでいるらしい。
 普段は海底に寝そべっていて殆どといっていいほど動かないと言う。大きな口と食道で自分の体長の70%を占める。頭の上にある俗に言う“ちょうちん”をひらひらさせながら小魚をおびきよせ,体重の3分の1程を水ごと呑み込んで食べ「食っちゃ寝,食っちゃ寝」を繰り返している,ものぐさな魚らしい。しかし,時には水面まで浮上してきて水鳥をひと呑みし,浮力がついて沈めなくなったところを漁師につかまった…というような事もあるぐらい面白い魚と言う。こんな訳で,身体はブヨブヨに太っている。
 前にも記したが,一番おいしいのは「ホンアンコウ」という種類らしいが,それよりやや小さい「チョウチンアンコウ」はメスが巨大なのにオスはごく小さく,60分の1ぐらいしかなくて,しかも全身が生殖器で,生まれるとすぐメスの下腹に取りついて,メスの体から栄養分を吸収して生きているという不思議な魚(アンコウ)もいるらしい。何と表現すればいいのか,ほんとうに不思議な魚である。

※なんとグロテスクな見かけであろうか。

「あんこうのつるし切り」は有名であるが,冒頭のテレビ撮影ではこのつるし切りは,午前中に終ったとかで見ることは出来なかったが,今日のあんこうは8kgを使ったと言う。以前ここで見た事がある。
 この「あんこう」と言う魚は前にも記したが体がブヨブヨであり,大きく全体がゼラチン質でおおわれている為,まな板の上ではとても切ることが出来ないらしい。そこで昔から「つるし切り」という方法がとられて来た。
 まず,天井の引き金具に下あごをひっかけて吊るし,口から水を入れて安定させてから包丁を入れる。大変おもしろい方法ではありませんか。そもそも,あんこうは,口が大きく,頭が平たく,体表はヌメヌメで,大変グロテスクで,魚らしくなく,とても美味そうな魚とは見えない。ましてや,つるして体の70%に水を入れるわけだから,見かけは毛を取った大きな鳥のようであった。
 以下は料理人から聞いた話である。
 まずはヒレをはね,皮をむき,腹を裂くと,中から肝・水袋(胃袋)・ヒモ(卵巣)が出て来る。最後に,中骨についた正身をはがすと残りは頭と中骨だけの姿になる。これを「あんこうのつるし切り」と言うとのこと。
 常陸の方の魚屋では冬梁にかけられたあんこうは,よく見られる風物詩と書かれていた。
 なんと言っても,このあんこうの「あん肝」は有名で,市場では腹を切って,肝を外に出して並べている所もあると言う。もちろん,大きい方が高いらしい。
 最近産地はここ常陸のものが有名だが,年々水揚げが減少して,近年,北海道余市や青森県大畑地区の北日本産や中国産のものまで入荷しはじめたと聞くと残念な気もするが,不漁と需要増には,逆らえないようである。
 あんこうは,ビタミンA・コラーゲンの他,タンパク質等も豊富で美肌・目の健康・
骨粗鬆症・ガン・抜け毛予防等に効果があると言うから大変良いものづくしである。もう少し,科学的に調べて見る。
 肉そのものは水分の多い白身(全重量の80%が水分)で,脂質含有量は少ないらしい。食用される肝臓の脂肪にはコレステロール値を下げ,血栓予防に効果的な脂質が大量に含まれる。イワシ等の青魚の脂質も人の体脂肪を燃焼させる働きがあるが,あんこうの肝臓は特に優れているらしい。主な脂質は,コレステロール値を下げ,血液をサラサラにする※IPA,脳 ※DHA,である。また美容分野でも知られている※レチノール(ビタミンA),ビタミンD,Eにも富んでいる,と言う。

※IPA……… イコサペンタエン酸(血栓を溶かしたり,血管を拡張して血液の流れを良くして,動脈硬化や脳卒中,高血圧の予防に役立つことで知られている不飽和脂肪酸)
※DHA……… ドコサヘキサエン酸(悪玉コレステロールを減らし,善玉コレステロールを増やす。脳や神経組織の発育を促進したり,脳機能の促進作用をもつ不飽和脂肪酸)
※レチノール… ビタミンA,皮膚や粘膜を保護し,視力を正常に保ちます。表皮細胞の新陳代謝を活性化し,お肌にハリを与える働きを持ち,また皮膚の角質化作用を抑制する。
   
水炊きにポン酢でさっぱり味のちり鍋。 素材の風味・食感をしっかり楽しめます。

 いかにもおいしそうな,盛付では,ありませんか。

 あんこうは捨てるところが無い経済的な魚と言う。美味しく食べることのできる各部位を7つに分けるので「あんこうの7つ道具」と呼ぶらしい。
 「身,皮,肝,ヒレ,エラ,卵巣,胃」をさし,それぞれの食感の違いが楽しめる。この7品をそれぞれ,水っぽさと土臭さを抜くために,蒸すか茹でる等の下処理が欠かせないと言う。


それではいよいよ「あんこう料理」についていろいろ調べてみました。

※「あんこう鍋」簡単に言うと,
 あんこうの身体の7種の具材に野菜を加え,味噌で味つけした鍋のことである。
 出し汁は味噌に肝を加えてあり,これがあんこう鍋特有のうまみを作り出す。油,みりん,昆布だし,鰹だしなどで味を整えるらしいが,店によりこの出し汁が秘伝のようであった。

※「どぶ汁」漁師の食べたあんこう鍋
 昔は,あんこうの水揚地,北茨城,平潟地方の漁業関係者が食べていたそうである。水や肉身や野菜から出る水分や味噌だけで作るので,肝の甘みが効いた濃厚な味と言う。

※「あんこうちり鍋」水炊き,ポン酢でさっぱり,昆布だしで水炊きし,ポン酢醤油にもみじおろし等に薬味等で食べる。

※「あん肝(きも)」あんこうの肝臓を蒸したもの
 あんこうの肝臓の血抜きをして汚れを洗い落し,整形し,蒸して冷したものである。

※「とも酢・共酢・友酢」あんこうの酢の物
 火にかけて,炒った肝(あるいは蒸した肝)に,砂糖,味噌,酢を加えたものをとも酢,これに茹でたあんこうの7つ道具を付けて食べる。

※「あんこう唐揚」
 あんこうの白身を唐揚する。

 別に「さしみ」もあるようだが結構,手間がかかり,店により出していないようである。

 あんこう料理のいろいろは以上のようであるがなんと言っても,最後は,「あんこう鍋」の具を出して,食の仕上げは雑炊である。フグ鍋でもそうだが,腹が一ぱいでも,ふしぎと食えるものだ。これを食しないと,後でものさみしさを感じるから,又々ふしぎである。
 スーパー等で最近「7つ道具」が2〜3人前のパックに入った「あんこうセット」が販売されているようだが,地元で食べる「あんこう鍋」は最高であった。以前行った時,店の中庭で,10kgもあろうか,あんこうの吊し切りに出合って感動した思い出が忘れられない。
 我々が撮影された平成17年11月27日8チャンネルのフジテレビ,朝6:15からの放映を見た結果を記しておこう。(撮った日,17年11月11日)。
 日曜日の早朝,6:00に起きて,スタンバイ,「おはよう茨城」の番組である。
 おもに茨城の産物の紹介で今回は「なっとう」と霞が浦でとれる「小魚の佃煮」と「あんこう」であった。
 あんなに時間をかけて食事風景を撮ったのに出て来た時間は10秒たらず,言葉なし。がっかりであったが楽しそうにの食事風景は満足であった。
 以上,すべてすてる所がない「あんこう」実に体に良いと言うから,大いに食べて元気を出して頑張りましょう。

          水戸の「あんこう」(H17. 11. 11)

     東のあんこう 西のふぐ   味を競きそう,御両魚は
      どちらも 鍋がすばらしい   地元の料理は,その地に行って
     黄門様も 大歓迎   あんこう料理に 舌鼓したつづみ
      天井につるして つるし切り   白味の肉を 切りさばく
      あんきも,ぞうすい,みその鍋   天下にその名の 知れ渡る
      冬の季節に ぴったりの   これぞ,水戸のあんこう鍋

※水戸の「山翠」玄関口。なかなか,良い店であった。
※「つるし切り」の実演中。

※モクモクと食事中の面々。

 この写真は平成17年11月27日(日)早朝6時15分,フジテレビ(8チャンネル)で放映されたものをお借りしました。
 カラーでないのが残念ですが,文面の中にある水戸「山翠」の玄関である。
 又,「あんこうつるし切り」の写真で,この料理したものを夜食事した。
 そして,下が食事中の6人。
 テレビ画像写真は,伊東氏の提供です。ありがとうございました。

 

平成17年12月2日記
 

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