東京木材問屋協同組合


文苑 随想

時代を見つめて No.56


「熟年離婚」&「熟年結婚」について

時見 青風

 結婚歴の長い夫婦が離婚する「熟年離婚」,テレビドラマなどの題材となり,又新聞や雑誌等にもちょくちょく取り上げられて,「どう防ぐ『熟年離婚』」とか「“予兆”見逃さないで『熟年離婚』」とかの見出しで載っているのを最近よく見かけるようになった。
 現実にもシニアカップルの離婚は深刻な問題となったようである。
 結婚歴20年以上の夫婦の離婚はこの20年間で四倍に膨れ上ったらしい。その多くは,妻の生活や人間性を軽視した夫に対する不満に起因すると言うのである。
 パートナーとしてお互いに自立した関係を再構築する必要に迫られていると,見出しでは言われている。

 話題のテレビドラマについて,内容を先に記して見たいと思う。

 家族のために仕事一筋で頑張ってきた夫。
 その陰で静かに家族を見守ってきた妻。
 知らず知らずのうちに構築された「溝」は取り返しのつかないほど深くなっていた…。

 このテレビドラマは,テレビ朝日がおくるホームドラマ「熟年離婚」題名そのものである。サラリーマン・豊原幸太郎(渡哲也)が定年退職を迎えた日の夜に突然,35年連れ添った妻・洋子(松坂慶子)から離婚を言い渡されるという“思わぬ事態”から始まる夫婦の物語である。
 妻でもなく,母でもない“ひとりの自立した女性”として第二の人生を歩みたいと考える洋子,なぜ妻がそんな大決断をしたか,全く事情が飲み込めない幸太郎だが,やがて自分がどれほど妻を理解していなかったか,家族と対時していなかったかに気づいてゆくのだが…。
 社会生活において,一番近い人間関係である夫婦,家族。
 近いからこそ生じる葛藤,家族だからこその建て前と本音,そして秘密。このドラマでは2007年団塊の世代が一斉に迎える「大定年時代」に起こりうる出来事だと予想されている“熟年離婚”を切り口に家族の形,夫婦,男と女とは何かを考えて行くと言うドラマらしいが…。

 入社以来,まじめに働き,現場の叩き上げで部長まで昇進,郊外に買った一戸建ての家のローンも終え,3人の子供も大学を卒業した。退職後は妻と世界一周旅行を楽しもうと思っていた夫には,正に青天の霹靂。だが,妻には家庭を顧みない夫に代って家事一切と子育てをこなし,自分がやりたいことを封印してきた不満が積もっていた。
 夫が会社を卒業するのを機に,私も専業主婦を卒業して好きなことをしたい…。
 定年前後の家庭に,このドラマと似通ったケースが多いためらしい。このドラマ「熟年離婚」は高視聴率を続けていると言う。
 一般的な離婚の三大要因は浮気・暴力・借金だが熟年夫婦の場合は,こういった救いがたい理由は少ないと言う。ほとんどが夫への何がしかの不満が積もった結果であると言う。妻が感じる不満とは,報道によると,「定年退職した男性の八割は,何もしない人」になるらしい。
 いつも家にいる引きこもり夫が,妻の最大の不満原因となる。
 企業戦士だった夫がくたびれ果てて,家庭に戻ってきた時から妻の日常は激変する。夫が定年を迎える頃は,だいたい人にもよるが,妻の年齢は54〜5歳ぐらい。老いはまだ先であり,エネルギーはまだ満ちあふれている。パートや仕事を持っていたりして,地域活動等忙しい毎日であったとすると,夫は妻が日常どんな環境なのか知らず,「めし」「風呂」「寝る」しか言わない「三語族」になる人もいると言う。
 妻が外出する日は,何時に帰るのか,特に食事がどうなるか心配でしようがない,そのため妻の外出を禁止する夫もいると言うから,こうなると重症である。
 夫が家にいること自体が,ストレスをおこす原因となり,胃潰瘍,高血圧,うつ状態にもなると言うから大変である。
 この状態を「主人在宅ストレス症候群」と名づけた医師もいるくらいである。
 熟年離婚の根本的な原因は夫婦の日常会話不足が要因ではないか,共通の話題をつくり,楽しむのも大事のようである。そして自立するために趣味を作り,妻に負担をかけないように,妻に役割を押し付けたり,自分の不機嫌さを相手のせいにしたりせず,定年後の時間を自分のアイデアで作り,いつも機嫌よく過ごすよう努力しなければならないのだ。
 夫婦がパートナーとしての関係を見直し,互いに快適な老後を過ごすための話し合いと環境づくりをする必要があるのである。

 私の知人に今のこの熟年離婚と言う題名にピッタリの人がいた。気の毒で,可哀想だが,どうしようもなく,言葉のかけようもなかった。こればかりは,本人の夫婦の問題で手のさしのべようがなかった。

 彼は会社の転勤命令で何回か異動し,最後は60歳の定年まで東京勤務であった。
 彼は真面目でよく家庭の事を思い,いろいろ話してくれた。田舎には努力して貯めた金で家を建てたため,妻と2人の男の子は田舎で生活し,別居生活が16年続いた。1ヶ月に1度の帰郷で子供の事や家のことは,自分では用を足していた,と本人は思っていたのである。子供達も学校を卒業してから,それぞれ旅立っていき,妻は1人になったが,時々東京にも出て来ていた。後2?3年で定年になるからと言うので,妻との同居をしなかったのか? その辺が理解出来ないが,その頃から2人の間に“溝”が出来たのではないか,と後で思う。
 そして定年が近づいたある日,送別会をした日,定年後の妻との海外旅行や第2の人生計画等いろいろ長時間に亘り聞いたのである。
 そして最後に,この予定は奥さんと話し合った2人の計画かと尋ねたら,全部自分ひとりの計画で,妻を驚かそうと密かに予定を立てている,と言う。その時,私なりに感じた事があったので,奥さんの誕生日には花ぐらいは送ってますか,と聞いたら,何もしていないが,妻は理解がある人だ,と言うから,それ以上は聞かなかった。そして定年の日が来た。電話がかかり,大変お世話になったが,明日帰る,との事で,落ち着いたら又,2人で上京し,お会いします,と電話を切った。
 それから何週間か経ったある日,離婚することになったが,是非お会いしたいと言うのである。突然の別れ話にびっくりしたが,とにかく会う事になり,日時を決めたのである。
 そして会った時の彼の様子は,生きる力を失なった,オーバーかも知れないが,廃人のようであった。
 行き違いを生じ始めた2人の心は重なる事は出来なかったのであろう。あれほどまでに定年後の二人の夢を抱きしめて帰郷したはずの彼は,一方通行に終ったのである。そして妻は家を出て行き,彼は,田舎(彼の家とは違う所)で1人ぐらしをしている彼の90才の母親と(実家で)2人ぐらしの生活をしている,と聞いた。なんと淋しい限りであろうか。
 妻は彼が定年を迎える2〜3年前から,退職金を山分けして,別れる事を密かに考え,決断していたらしい。東京から退職金を持参し,家に帰ったその夜の話は,彼にとって真逆の地獄の話であった。妻に対する反省は後の祭りであったのだ。こうならない為にはどうするか,普段の心掛けが大変大事になって来るのである。

 熟年離婚とならない為の妻への心がけ11箇条
  01. ずっと仕事が忙しい時でも家庭をおろそかにしない。
  02. 仕事を離れても趣味を持って妻にベタベタしない。
  03. 仕事を離れても家でのんびりするような事は考えてはいけない。
  04. 料理をならって,妻に協力する方が良い。
  05. 妻の外出にいちいち口を出さない。
  06. 妻に対して「ありがとう」とか「ごめん」とか言うようにしよう。
  07. 妻となるべく会話をしてよく聞くようにする。
  08. 自分の服ぐらいはどこにあるか分かるようにする。
  09. 妻の手料理を「おいしい」と言って食べるように心がける。
  10. 妻が友達と旅行する時,気持よく出してやる。
  11. 誕生日,母の日ぐらいは花でも贈ろう。

 前にも記したが,ここ20年ぐらいで離婚の件数は4倍にふくれあがった。しかし平成14年の289,836件から,平成15年では286,000件と4,000件の減少となっている。この数字だけを見ると今後離婚の件数は減少傾向になったのかと思うのだが,調べて見ると,実は婚姻件数が平成14年の757,331件から平成15年では737,000件と,実に20,000件程度減少している。これを平成13年の婚姻件数の799,999と比較すると,実に62,999件の減少なのである。
 これは単純に結婚をせず,シングルで生活している人の数が増加傾向にある事を示している。
 さて,先に記した平成15年の離婚の件数286,000件のカップルをシングルに計算すると572,000人の方が独身者となり,大変な数字になっている事が分かった。

 前にも記したが,ここ1?2年の離婚件数の減少が特に目立始めたのは,前の独身者の増加の他に,その理由がはっきりして来た事が他にもあった。
 2004(平成16年)法律で決まった,夫の年金分割により主婦にも年金がくるのである。離婚してでもである。いま弁護士業界では,忙しくなるぞと,大変はりきっているとか。
 2007年(平成19年),団塊の世代が大量に定年を迎える。熟年離婚で日本は,大きく変わるかも知れない。2007年(平成19年)4月からの施行である。

 そこで,法律を少し勉強して見ることにした。

 平成16年の年金関係法の改正で,離婚後に夫の年金の一部を分割してもらえることになった(年金分割)のである。
 年金分割制度開始を待っている熟年離婚予備軍も多いと言うのである。
 これまで,裁判所でも,夫に対して,財産分与として年金の一部を妻に支払うように命ずることもあったようだが,夫が払ってくれなければ,年金は差押禁止財産なので,強制執行することは出来なかった。
 年金分割制度の画期的なところは,このように「夫を通して」ではなく「直接」もらえることになることである。
 平成19年4月以降に離婚した場合に,年金分割が認められる(それより前ではダメ。)。
 具体的には,夫婦の婚姻期間等の被保険者期間にかかる年金(老齢厚生年金と障害厚生年金)の2分の1を上限として,妻が分割を請求出来る(ただし離婚より2年以内)。
 だが,分割割合については,原則として夫婦間の合意によるとなっている。
 因に,年金分割されるのは,婚姻期間中に支払った保険料に対応する夫婦合計の年金額の最大1/2まで。
 夫婦共稼ぎだった場合は,夫婦の支払った保険料合計の2分の1が上限になるので,妻の方が稼ぎがよければ,その分が夫に分割されることもあると言う。

 私の知人にこんな人がいる。その方は,妻を13年前に亡くし,現在72才であるが,子供夫婦と共同生活をしていた。所が子供が転勤になって,家を出ることになり,身の廻りから食事まで自分1人でやらなければならなくなった。あまり長くはない自分だが,まだまだ元気である。これからの事についてどうするか,思案の最中であった。
 所が知人の紹介で,ある病院を定年になってやめた60才の看護婦を会わせてくれた。もちろん初婚であり,とても60才には見えない美人である。彼女も何回か結婚のチャンスはあったであろうが,結ばれず,とうとう60才の定年を迎えてしまった。一度でいいから,食卓で2人だけの食事がして見たかった,と心のやさしい持主の彼女である。
 彼も中小企業の社長をして長年努力された苦労人である。人を見る目は並の人ではないが,一目ぼれしてしまったのである。
 と言う訳で,2人はめでたく結婚することになった。夫72才,妻60才の“熟年結婚”である。もちろん妻は初婚である。
 彼の人柄から,大勢の祝福を受け,盛大な結婚披露宴が行なわれた。この年で結婚するにはいろいろの問題が山ほどある。離婚も又問題は山程あるが,苦労も又同じぐらいある。
 いろいろの問題を克服し,結婚にこぎつけた。
 披露宴の席上,彼の挨拶は,
「いろいろの問題もありましたが克服し,結婚することになりました。先も,そんなに長くはありませんが,熟年離婚の多い中,私達は結婚しました。したからには少しでも長く,幸せに,皆様の手本に成りますよう,努力をしてまいりますのでよろしくお願いします。本日はありがとうございました」
 正確ではないがこのような挨拶であった。

 「妻は青年の恋人,中年の話し相手,老年の看護婦」…英国の哲学者ベーコンの言。

 離婚したくなかったら,
 「歳をとったら,女房の悪口を絶対言っちゃいけません。ひたすら感謝する。これは愛情じゃありません,生きる知恵です」…永六輔言。

 「熟年離婚」「熟年結婚」と人生はいろいろではあるが,人の一生,少しでも,より幸せに過ごしたいものである。

18.2.12記



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