見たり，聞いたり，探ったり　No.72

逮捕された「堀江貴文」（ホリエモン）と言う男
（ライブドア）　　　　　　

青木行雄

　「六本木ヒルズ」と言えば，今では知らない人は居ないぐらい，有名な場所になってしまった。その東京の中心，坂の上にある森タワーは54階建てで高さが238メートルある。平成15年4月にグランドオープンした時と違うことで，今は大変な賑わいである。遠くからでもかなり目立つ大変巨大なビルであるが，ここに本社を置くライブドア，ヤフー，楽天，サイバードの「ヒルズ四大銘柄」が城を構える。
　そして38階に元社長「ホリエモン」の会社「ライブドア」があった。
　このヒルズを拠点に華々しく活躍していた「ホリエモン」「ライブドア」が平成18年1月16日，東京地検特捜部の家宅捜索を受けた。
　急成長を支えていた錬金術が，証券取引法違反に問われ捜索を受け，そしてついに逮捕されたのである。

　「ホリエモン」の著書に「稼ぐが勝ち」，ゼロから100億，ボクのやり方，ライブドア代表取締役，堀江貴文，と言う本を平成16年（2004年）8月10日に初出版，第一刷，平成17年（2005年）3月5日までに，第七刷出版し，わずか7ヶ月の間にベストセラーとなった。
　内容は「ライブドア」の会社のこと，錬金術のことについて，詳しく記されていた。

　平成16年夏，プロ野球大阪近鉄バッファローズの経営権取得に名乗りをあげて一気に知名度をあげ，17年にはニッポン放送に買収を仕掛け，又衆議院選挙に立候補したり，派手な言動で注目を集めた「堀江貴文」だったのだが。

　「堀江貴文」という人の軌跡を資料や報道等により，追って記して見た。
　堀江氏は福岡県八女市の出身で，ソフトバンクの孫正義社長と同窓の久留米大付属高校から東京大学文学部に入学，ソフト開発会社でアルバイトとして特筆すべき成果を上げていた。
　平成8年（1996年）4月，23歳の時，東大在学中に知人4人で，東京・六本木の小さな雑居ビル，家賃7万円の部屋を借り，8畳の室内に中古ショップから買った家具，パソコン等揃え資本金600万円で始めたと言う。もちろん，堀江氏は，東大を中退である。設立時の会社の名前は「（有）オン・ザ・エッヂ」。初年度の売り上げは3600万円であったと記されている。そして，平成9年（1997年）7月に株式会社に組織変更，資本金1000万円であった。
　平成10年（1998年）9月，25歳の時，サイバーエージェントとともにインターネット広告事業を開始，以後両社の事業提携が続いた。
　平成11年（1999年）11月，サイバーエージェントと共同で，ネット上のコミュニティー運営会社「（株）フープス」を設立（平成13年9月に楽天へ売却）。
　9月（第4期）の決算で2億6千万円の売上げを達成。この時の社員20人であった。
　平成12年（2000年）1月，27歳の時，事業拡大に伴い，本店を東京都渋谷区渋谷三丁目3番5号に移転した。
　平成12年（2000年）4月，東京証券取引所マザーズについに株式を上場する。マザー上場銘柄としては7社目であったと言う。
　同時に1000株の公募増資を行う。そして投資事業を目的として「（株）キャピタリスタ」を設立，データセンター事業「データホテル」開始，従来のデータセンターが単に設備を提供しているだけなのに対し，この「データホテル」は，サーバー管理を含めた多様な総合サービスを提供することを目的としたと言う。
　5月，EC（エレクトロニック・コマース）サイト構築に特化した100％出資子会社「（株）エッヂコマース」を設立。
　9月第5期の決算で11億6000万円と大幅に売上を伸ばしている。ウェブ制作事業の受注単価が，100万円前後から800万円前後に大きく伸びたことが影響したと記されている。この時，社員83人となっていた。
　10月，中国大連に「英極軟件開発有限公司」設立，「中国北方のシリコンバレー」を目指す大連ハイテクゾーンに，資本金5000万円を投資し，ウェブ制作事業の生産能力確保などを目的とした海外への積極的な事業展開を進めていった。

　平成13年（2001年）28歳の時。
　5月，無料インスタントメッセンジャー事業「矢文」を引継ぐ。「矢文」はアニメーションによりメッセージ着信を知らせる機能，チャット機能，グリーディングカード機能などを持つ。会員数はこの時約11万人。
　9月，2001年9月（第6期）の決算・売上高は29億2000万円であった。この時の社員数は，153人に膨れ上がっていた。

　平成14年（2002年）29歳の時。
　2月，電子メールソフト「ユードラ」の日本語版開発・販売で提携，9月期の連結決算売上高58億9000万円の売上を達成，ソフト開発「プロジー」グループを子会社化とする。
　平成14年11月，無料インターネットプロバイダー「ライブドア」の民事再生手続きを機に営業譲渡を受ける。

　平成15年（2003年）4月，30歳の時，社名を「エッジ」に変更した。
　5月，株式10分割を発表する。
　8月，パソコンのオペレーションソフト「リンドウズOS」を独占販売開始。
　9月，15年9月期の連結売上高108億2400万円。
　11月，株式100分割を発表する。
　12月に「100億稼ぐ仕事術」と言う単行本を出版する。

　平成16年（2004年）31歳の時。
　2月「エッジ（株）」から社名を「（株）ライブドア」に変更した。3月に本店を六本木ヒルズに移転する。日本グローバル証券（現ライブドア証券）を子会社化する。
　4月，600万株の公募増資，調達額358億6800万円。
　5月，株式10分割を発表した。
　6月，プロ野球参入を表明する。
　9月，16年9月期の連結売上高308億円。

　平成17年（2005年）32歳の時。
　2月，東京証券取引所の時間外取引でニッポン放送株を大量取得し，世間を驚かせた。
　3月，西京銀行とインターネット専業銀行設立で合意したが，実現出来なかった。
　4月，ニッポン放送株取得問題でフジテレビと「和解」したが，今後はどうなる。
　6月，無線LAN事業の参入発表。
　8月，ジャック・ホールディングスを買収。そして8月に衆院選に出馬し，世間を賑わせ，自民党の苦い種となっている。
　17年度，9月期の連結売上高784億円と発表した。
　10月，あの通信販売大手のセシール買収する。
　12月，ダイナシティを買収する。
　12月，日本経団連，ライブドアの入会を承認した。

　そして平成18年1月16日，夕刻東京地検特捜部と証券取引等監視委員会は，ライブドア本社などを証券取引法違反容疑で家宅捜索。
　1月23日，特捜部は，堀江貴文ら4容疑者を「偽計取引，風説の流布」容疑で逮捕した。

　以上が本人の著書や，報道による，会社を設立してから，逮捕されるまでの10年間を簡単にミックスして，取りまとめて記して見たものである。
　そして，その後捜索の進展により，次々と虚偽等が発覚し，果たしてどうなって行くか容疑の成り行きが注目される。

　ライブドアグループの主要企業（28社）　　は上場企業

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（注　TOBは株式公開買い付け）
　若者たちが目指す，「勝ち組の塔」六本木ヒルズ，前にも記したが15年4月に華々しくオープンしたオフィス棟，54階建ての森タワーには，M&A（企業の合併・買収）やIT（情報通信）で話題の新興企業や外資系金融機関などが約40社が入居していると言われており，現在あの大きなビルに空き室はないと言うから，凄いと思う。
　1時，回転ドアー問題で騒がれた事もあったが，ブランド店や有名レストランが集まる東京の新名所でもある，オフィス棟のセキュリティー（防犯設備と言うか）は厳重で，駅の自動改札口のようなゲートを専用のICカードで抜けるようになっている。
　ライブドアのオフィス内は実際に見た事はないが，テレビ等で見ると，穴の開いたジーンズにラフなジャケットに，帽子をかぶったプログラマー等がパソコンに向ってキーボードを叩く姿が見られた。スーツ姿はあまり見られない。
　「ホリエモン」が住んでいた場所は，隣接の賃貸マンションで「六本木ヒルズレジデンス」，家賃は，約80平方メートルの部屋で月60万円と言う。オフィス棟で360平方メートルとの部屋で550万円，坪約5万円が相場と言うから，凄い。
　昨年2月，ニッポン放送株の買収に乗り出した時の「ホリエモン」が会見場に選んだのは，この森タワー49階の大会議室であった。眺望のいいオフィスの窓辺でインタビューに答える姿がメディアで繰り返し流れたのである。巨大メディアが進んで取り上げ，持て囃した当時の「ホリエモン」は若い世代の「教祖的」な存在であったように思う。
　又，昨年の12月25日，東京都内の巨大宴会場で，私はテレビで見たのだが，ライブドアの定時株主総会に集まった約7500人の株主の前に，いつも見かける服装で「時価総額が大きくない，皆さんがびっくりするような買収ができる」と訴えると，会場から大きな拍手が起きた様子もテレビで見た。来年は武道館で総会をやると言っていた。
　はライブドアの株主ではないが，個人株主を急増させたのは相次ぐ株式分割である。4年間で3万分割したのである。
　先にも記したがメディアに持て囃され始めた当時，タレントを雇いテレビCMを打つより，僕が出た方が安上がりだったからと言ったとも記されており，「ホリエモン」がライブドアの広告塔としてテレビなどに出演するようになったのは，大阪近鉄バッファローズに買収提案した平成16年の6月以降の事と言うし，その効果は抜群で，個人投資家の中で存在感が高まり，人気を集めた。2005年の9月末でライブドアは株主数22万人，西武鉄道が2004年に上場廃止になった時約8千人，2005年のカネボウが約6万4千人と言うから，ライブドアは群を抜いている。しかも過半数は個人株主であった。

　いろいろと記して来たが，あらましを改めてかいつまんで記して見ると。
　ホリエモンは，東大在学中の平成8年，借金して集めた資本金600万円を元手にインターネットのホームページ製作などをする「オン・ザ・エッヂ」を設立して，上場させ，株式分割や企業合併・買収（M&A）を繰り返した。グループ全体の時価総額を10年で約1兆円に膨らませる事には一時成功したのである。
　この間，前にも記したように近鉄球団の買収に名乗りを上げ，ニッポン放送株をも買い占め，そして一躍，時代の「寵児」にのし上った。しかし，世の中はそんなに甘くはなかった。株の売買で証券取引法違反（偽計取引，風説の流布）よく判らないが，こんな容疑で逮捕された。粉飾決算も見つかった。そして，捜査を受けた日から，ライブドアグループ全体の時価総額は，一週間で6千億円分が消えたと言う。
　前にも記したが，絶頂の時，彼の本の中に「人の心はお金で買える」と挑発している。
　起業から10年，「世界一」の会社にすると言いつつ，急成長を遂げて来たが，ライブドアのホリエモンはついに逮捕された。あの「六本木ヒルズレジデンス」の高級マンションの月60万円の部屋から，約3畳の拘置所独居房に“転落”したのである。
　これからの成行き注目されるが，大物であり，並の人間の出来る事ではなかったことは事実であった。しかし「人の心はお金で買える」とか「お金の為なら何んでもやる人」であり，公的な場面にTシャツ姿で登場したり，ぶしつけで軽薄な物言いが，若者や団塊の世代から支持されること自体が馴染めなかった。
　誰かが叱ってやらなければならなかったが，マスコミには，持て囃され，金の力で子供がそのまま殿様になってしまったのである。
　逮捕された「ホリエモン」や「ライブドア」の「実力」とは一体何だったのだ，私たちに問いかけているようである。