東京木材問屋協同組合


文苑 随想


深川不動尊での護摩に参加して

榎戸 勇

 去る4月13日に組合のご招待で深川不動尊の護摩に参加させて頂いた。
 この催しは毎年行なわれているとのことであるが,今年は偶々私が80歳,妻が75歳なので2人揃ってご招待を受けたわけである。75歳,80歳,85歳,そして90歳以上の組合員とその配偶者が招待されると教えられた。

 10歳年上(90歳)の元理事長渡辺茂さん,亀井清蔵さん,元副理事長田中実さん,そして平野4丁目町会長を永くつとめられた松永宗之助さん等のお元気なお姿に久々に接して嬉しかった。そして私達80歳グループは岩附茂雄元副理事長,氏橋幸次郎,福井幸一,関谷吉太郎,鈴木清八,脇谷隆浩,村上登の各氏と私の8名が顔を揃えた。しかし5歳年上の85歳の方は少なく,やはり大正10年前後の方々が先の大戦で最も多く戦死されたのではなかろうかと考えさせられた。

 さて,護摩の読経は声も大きく,大きな太鼓を打ち鳴らし,そして時に山伏が吹くような法螺を吹く。初めての経験なので驚いている間に約30分の読経と護摩が終った。椅子に腰かけての参列なので大変よかった。

 それにしても何故不動明王は火炎を背にし,あんなに恐ろしいお顔で私達を睨んでいるのだろうかと以前から不思議に思っていた。私は仏教や神道,そして宗教一般について全くの門外漢なので,取り敢えず不動明王について調べてみることにした。

 成田山新勝寺は真言宗の寺院である。従ってその流れをくむ深川不動尊も真言宗だと思う。しかし不動明王を祀る寺院は天台宗にもあるので,密教と関係があるのかもしれない。密教は大日如来に帰依し,加持,祈祷を重んじており,東密(真言宗)と台密(天台宗)の2つの系統があるという。どちらも大乗仏教であり,多くの人々を救うために仏法を広めることを宗としている。ちなみに大乗とは多くの人々が乗れる乗物のことである。小乗仏教,一人しか乗れない乗物,つまり山に籠ったままの修行,坐禅をしてひたすら自分の心の修行をする仏教との対比で大乗といわれているとのことである。

 さて,不動明王であるが,五明王の中心に坐している。五明王とは不動明王の他に東に降三世明王(ごうさんぜ),貪瞋痴(とんじんち)の三毒を降伏(ごうぶく)する三界の主という。三面か四面で多くは八臂である。南には軍茶利明王(ぐんだり),南方の守護神で一面八臂か四面四臂である。西には大威徳明王(だいいとく),西方を守り衆生を害する毒蛇悪竜を退治するといわれている。六面六臂六足の像が多い。北には金剛夜叉明王(こんごうやしゃ),北方を守護し悪魔を降伏(ごうぶく)する明王で五眼三面六臂である。そして不動明王を含めこの五明王は全て忿怒相(ふんぬそう)である。つまり悪霊悪魔を睨んでいるわけである。

 五明王の中心に居る不動明王は密教で大日如来の化身とされ,仏教の守護神で右手に剣,左手に羂索(けんさく)を持ち火炎を背に金剛童子を従えている。金剛童子というのは仏教の護法神のひとつで,密教で息災調伏などの修法の本尊となる童子であり,手に金剛杵(こんごうしょ)を持っていることが多い。金剛杵は古代インドの武器に由来しており,煩悩を打ち砕く菩提心の象徴であるという。

 大日如来は日輪の意味で密教の教主である。宇宙の本体である大日如来からあらゆる仏,菩薩が生まれるとされる法身仏で,真言密教の教主である。(天台密教では大日如来だけでなく阿弥陀如来,薬師如来等をご本尊とする寺院も多い。)

 大日如来は天にあって宇宙の動きに全てを司っているので天を離れるわけにいかないため,不動明王を化身として地上に送ったとのことである。深川不動尊の奥殿には大日如来像が置かれていた。これでやっと大日如来と不動明王の関係がわかったわけである。まさに一夜漬の付け焼き刃の勉強である。

 深川不動尊で護摩を焚いて頂き,私達の心の中に潜む煩悩は不動明王に睨まれて退散し,護摩木と共に明王の炎に焼かれた。護摩の終ったあとの私達の心は清められ,災いが除かれて幸福になるといわれている。有難いことである。

 護摩終了後はホテルのマイクロバスでイースト21のホテルへ行き,立派な会食をしてお土産まで頂いた。一組合員として組合へ深く感謝する次第である。

(注)
○貪瞋痴(とんじんち)の三毒
 貪(とん)貪欲,欲ふか,欲ばる。
 瞋(じん)怒り,にくむ,恨む。
 痴(ち)まよい,愚痴(ぐち)。

○護法神(ごほうじん)
 仏をだいじに守る神。

○東密と台密
 天台宗の密教を「台密」というのは即わかるが,真言宗の密教を何故「東密」と呼ぶのかがわからなかったので調べてみた。
 真言宗は9世紀の初め弘法大師空海(774〜835)が密教の秘法を唐で学んで高野山金剛峰寺を開創したので,真言宗の総本山は高野山である。しかし高野山は京の都から遠く離れているため,京都九条にある「東寺」を本山として空海が真言密教の教えを説いたので,その教えを「東密」と言ったとのことである。尚,天台宗は空海と同時代の人,伝教大師最澄(767〜822)が比叡山に「一乗止観院」を創建して密教を唱えた。最澄の死後,「一乗止観院」は,嵯峨天皇から,時の年号「延暦」にちなんで「延暦寺」の名を受けたものである。

(以上)
18・4・28記



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