東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(22)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 私が鎌倉を散策するようになったのは,戦死した父の墓を建て,年2回の彼岸にお詣りする習慣が身に付いた時からです。母が7年前に他界し,以来毎月行く様になり,周りの名刹や史跡を巡り歩くのが楽しみになりました。
  何故鎌倉はこんなにお寺が多いのでしょうか。いいくに(1192)つくった鎌倉幕府,頼朝が鎌倉に幕府を開いて以来,800年以上の歴史があるのだから当然と云えるのかも知れませんが。代表的なお寺,円覚寺の由来を繙いてみました。時の執権,北条時宗が,文永,弘安の役(1274,1281)で,元との戦いで死んだ兵士たちの菩提を弔うために,宋の禅僧,無学祖元を開山に招いて建立されました。中学生の時覚えた,蒙古襲来,(逃げて帰った一夫無し)という年号が蘇って参りました。この様に,鎌倉五山(建長寺,円覚寺,寿福寺,浄智寺,浄妙寺)はじめ100以上の名刹には夫々,簡単には語り尽くせない故事来歴があり,800年間,多くの人々の祈りが籠められており,古都と云われる地域全体が歴史の宝庫として温存されております。夥しい数の古人の霊がまわりの風物と相い和して,散策する我々に呼びかけ,その結果,心身共に癒されるのではないでしょうか。この様な経験をされた方は多いのではないかと思います。
  東大寺や法隆寺は千年以上経っても倒れません。西岡さんという宮大工の著書を読むと『樹令千年の樹木は,伐って建物を造ると,千年保つ』そうです。樹令千年の樹を伐って建物に使ったとき,木を植えれば,建物が千年の寿命を全うしたときに,植えた樹が千年経ち,建て替えが可能となります。この説は木材工学の見地から云えば,大きな矛盾があります。樹木を伐って製材し,建物の部材に使えば,その部材は凡そ100年の間は硬化して強度を増します。ところがその後劣化して次第に弱くなります。
  昨年開催された,ギャラリーA4,木材活用推進協議会主催シンポジウムで,小原二郎氏は参加者の質問に対する明快な回答で,矛盾は見事に氷解しました。
  法隆寺や東大寺は,建立当時,あまりにも立派な建物であった為,千年保たせよう,という思いが募り,金物等による補強や,綿密なメンテナンスを施し,その結果,千年以上保ったのであります。
  木には心があり,使う人の気持ちを理解出来ます。名工によって造られたヴァイオリンは,名手が奏でる音を心地よく受け止め,相乗効果によって名器となって行きます。
  歴史的建造物は,創った人,訪れる人の永年の祈りが蓄積され,後生の人々に大きな感動をもたらすのではないでしょうか。




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