東京木材問屋協同組合


文苑 随想



経理は経営の要(カナメ)

榎戸 勇

 ずい分以前のことであるが,財務管理のセミナーで経理の重要性を聞いたことがある。
 その時は余り関心を持たず,聞き流していたが,最近になって経理の大切さを再認識しているので,駄文であるが書いてみることにした。

 そのセミナーは企業対象のセミナーなので企業の経理についての話であったが,私共家業,そして生業の場合も経理の大切さを見直す必要がある。
 扇子の図を見て頂きたい。扇子は涼をとるために使われる。そして煽いで風を送ってくれるのは?の紙を貼ってある部分であり,営業体でいえば営業部門である。営業部門は収益をあげなければならない。朝夕売上と収益の増進のため努力している。収益があがらなければ経費を賄いきれず赤字になってしまうので,?は大切な部門である。

 ?は管理部門で扇子でいえば竹を薄く剥いで?を支える役目をしている。管理部門は営業管理だけでなく,財務管理,人事管理,組織管理等々沢山の管理がある。このうち収益をあげることができるのは財務管理だけで,財務管理は余剰資金の有効投資も行うが,主たる業務は資金効率をよくするために資金配分を検討し,収益の少ない部門から多い部門へ資金を移したり,銀行と資金の打合わせ,金利の交渉等を行なう。人事部門と会合して収益の多い部門の人員を増やし,収益の少ない部門の人員を減らすように提案もする。

 それでは社長(専務,常務等も)はどこに位置するのであろうか。◎が彼等の居場所である。常務クラスは管理部門のひとつふたつの長を兼ねることが多いので,代表取締役だけを考えると管理部門のどこかに位置している。社長が営業の先頭に立っている場合もあるし,?に近い処で管理部門全体を掌握している場合もあろう。その会社の置かれた状況,あるいは企業規模により色々である。

 そして?の経理部門は只管企業会計原則に則った正確な経理を行ない,毎月あるいは定められた一定期間ごとに貸借対照表と損益計算書をつくり社長等に報告し,必要に応じ外部へも発表する。しかし扇子の役割である風を送って涼を与えることは全くない。その面から見ると全く役にたたない部門である。
 しかし,?が確りしていなければ扇子はバラバラに崩れ,?も?も駄目になってしまう。従って経理?は経営の要なのである。

 以上は企業を対象にしての話であるが,私共家業はどうなのであろうか。
 扇子が半びらきになった図を見て頂きたい。
 扇子の開き方は規模によって色々である。資本や役員構成は家業であるが営業は企業のような規模になっている場合は7?8割開いているであろう。しかし大部分の材木店,製材工場等は扇子を3割開いた状況位と思う。この場合?も巾が狭いし,?も小さい。これで十分なのである。?の経理は経理担当者が1人居れば十分で,社長の奥さんが電話番がてら会社へ来て経理を担当しているお店もある。これでよいのであるが,この場合も奥さんは商工会議所の初級程度の簿記の知識を持って複式簿記による伝票,元帳の記帳をして頂きたい。NHKや新聞社の通信講座があるので簡単に勉強することができるし,年数回行なわれる初級の試験を受験して合格していれば十分である。やる気があればやさしい試験なので是非おすすめする。

 さて,一般の家業の場合,社長が自ら営業の先頭に立って得意先回り,仕入先との交渉,場合によっては自らトラックで配達をすることもあろう。営業の主役なのである。管理は巾も狭く資金や売掛債権の管理,売掛金回収が遅れている場合の対応,銀行との折衝等が主であろう。しかし営業に専念しながらこれをやるのは大変ではある。そして更に経理部門の帳簿にも目を通す必要がある。家業の社長はこれを怠ってはならない。経理を経理担当者と税理士に任せっぱなしで儲かっているのか,いないのかもわからないで,営業に走り回っていたのでは経営はできない。まさに一人三役,四役の仕事である。特に経理担当者に不正があり使いこみ等があれば,それを見抜くだけの経理知識も必要である。家業の経営者の仕事も大変である。

 経営の結果は貸借対照表,損益計算書,株主資本等変動計算書で示される。これらは税理士が作ってくれることが多いと思うが,これらは経営のカルテである。それらを見てその内容を知り,家業の問題点を検討することができれば万全である。過去3年間,更に5年間位を見比べて,売上が急増していれば架空売上を営業担当者が計上しているのではないか,売掛金が増えていれば回収の遅れまたは架空売上,在庫が増えていれば在庫の水増しの有無等々更に詳しい検討が必要かも知れない。家業の社長は一家の全財産をかけて経営しているのであるから,自ら帳簿をつけていなくても,決算書を読み検討するだけの経理知識が必要である。これら全てに万能の経営者は少ないと思うが,少しでもそれに近づくようにしなければなるまい。

 近年の混沌とした世界経済情勢を見ていると明日は何が起こるかわからない。それへの万全の備えをして家業を考えなければならない昨今なのである。

 

H20. 5. 6
(以上)

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