東京木材問屋協同組合


文苑 随想

無垢木材のすすめ

伊藤 玄二


 木材に調湿能力のあることは良く知られています。水分が出たり入ったりすることによって,縮んだり膨らんだりするのは当たり前で,その結果,割れが生じたり反ったりすることがあるのも当然です。これは木材の特質であって,欠点ではありません。木材は天然の産物で工業製品ではないのですから。
  然るに,最近は寸法の精度,安定性だけを追い求める傾向が強過ぎるように思います。もともと木造住宅は柔構造で,弛み,遊びのある建物です。無垢の木材で充分対応できるはずなのです。和室の柱には背割りをし,大壁には必ず胴ぶちを使う,伝統的工法には木材の欠点?を緩和する知恵が込められています。
  また,昔の棟梁には木材を見て,曲がるとすればどちらに曲がるかを見極める眼がありました。それを考慮した上で,墨付けをしたのです。プレカットの時代となり,機械からの要求によりΚD材,集成材が全盛です。
  然し私は両方ともにいささか懸念を持ちます。人工乾燥釜の中を見ると水に混じって大量の樹脂成分が落ちています。表面割れのない無背割りの柱には殆どの場合芯割れが見られます。あれを実際に見た上でなお木材の経年劣化,耐久力には影響がないと言える人はいないのではないかと思います。また柔構造を支える弾力性にも影響があります。手刻みする大工にはホゾが欠けやすいとKD材を嫌う人がいるくらいです。
  天然乾燥材と人工乾燥材には柔軟性と粘り強さにおいて,丁度フランスパンとビスケットのような違いがあるように私には思えます。他方,集成材には接着剤の問題がついてまわります。化学物質の蒸散は長く続きます。アレルギー,シックハウス症候群が言われ始めたのはベニヤ,集成材,複合フロア等が使われ始めて相当の期間が経ってからで,現在はホルムアルデヒドが規制対象となっています。アスベストの例を思い起こしてください。今は規制されていない他の化学物質が,将来に亘って安全だと誰が言い切れるのでしょう。
  榎戸さんと同じように私も父親の建てた木造住宅に47年間住んでいます。今のところ不都合は感じません。最近でこそ,まれになりましたが厳冬の乾燥期には木の割れる音がいつまでも聞こえたものです。
  10年保証(言い換えると10年もてば良い)の付いた現在主流のホワイト集成柱,間柱にボード直打ち工法の家ではこれ程長い時間は住めないと確信します。40年後を自分の目で確かめられそうもないのが残念ですが。
  ひと昔前,阪神大震災の後,快哉を叫びたくなる記事を読みました。被害地域に建てた180棟余の住宅がすべて無傷だったことから,その秘訣を問われた大工が「自分にはわからない。親方から教わった通りにやってきただけだ。」と答えていたのです。ちゃんとした職人とはこうしたものなのです。
  それにつけて,最近の役所の向かう方向には気になる点があります。いつの世にも欠陥品を売り付ける不心得な業者はいます。そのような業者を排除するため,規制がある程度必要なことは理解できます。
  然し適材適所を心得た棟梁に含水率がどうの,Eがいくつだのと使用材料に規制をかけようとするのはおかしくないでしょうか。どうもそちらを目指しているように思えてなりません。
  少数派で結構だ,無垢の木を使って自分の思う良い家を建てるという大工,工務店を業界あげて大事にする時期が来ているように思います。

 

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