東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(47)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 去る8月11日未明,静岡県焼津沖を震源とするマグニチュード6.5の地震が起き,県内は震度5弱〜6弱を記録しました。
 当社は平成7年1月に起った阪神淡路大震災以来,地震に強い家の研究開発を進めておりました。
 静岡県は全国で最も地震対策が進んでおり,東海地震に備えて,TOKAI?0プロジェクトと銘打って,全国から耐震工法を募集しておりました。その時,ようやく開発した当社の耐震工法を以って応募し,250社の中でベスト8に選ばれ,県指定の工法として補助金の対象にもさせて頂くことができました。
 以来県下で同工法の普及に努めて参りました。8月12〜13日,お盆休みを返上して,当社の社員2名が,御見舞いを兼ねて効果の調査に向いました。焼津市内では約300棟の耐震改修をさせて頂きましたが,うち30軒の訪問の結果は被害はほぼ0で,感謝のお言葉も賜り,感動して帰って参りました。
 数年前,名古屋万博に行ったとき,観光バスで通行中,中年のガイド嬢の説明を想い出し,「はっ」と致しました。
 説明は次のような内容でありました。
 神代の昔,東国征討に向った倭建命が相模国に着いたとき,その国造にだまされて,進むと,国造はその野原に火を放ち,攻めたてられました。倭建命は叔母の倭比売命が下さった袋の口を解いて開けると,火打石が中にありました。まず刀で草を刈り払い,火打石で火を打ち出して向い火をつけ,燃え追って来る火を退けて,その野を無事脱出し,その国造どもを斬り殺して,ただちに火をつけ焼いてしまいました。今でもその地を焼津といいます。
 相模国とは当時今の静岡県まで含まれていたのではないか。草を薙ぎ倒した地域は今でも草薙という地名で残っています。
 何故,名古屋でガイド嬢はこの話をされたのでしょうか。倭比売命が袋と一緒に下さった草薙剣は名古屋にある熱田神宮の御神体となっており,名古屋の人はそれを誇りにしているからでしょう。なお草薙剣はいわゆる三種の神器の一つとなっている,という説もあります。
 ところで静岡県はなぜ防災の意識が高いのでしょうか。それは神代の昔から,火をかけられた地域を焼津と名付け,以来何時来るかも知れない災害に備えるDNAが今日に到るまで連綿と続いている左証でありましょう。
 因みに,人口当りの耐震化実績は焼津市がダントツでありました。
 次回は古事記の中で最も美しい物語と云われている,海彦,山彦の神話にヒントをもらい,地球環境問題について述べてみたいと思います。

 



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