東京木材問屋協同組合


文苑 随想

「私達流通業者はどんな木材を
     扱ったらよいのだろうか」

榎戸 勇


 新聞のコラム欄にこんな話が載っていた。
 小川未明の童話「殿様の茶わん」の話である。薄くて上品な茶わんを焼く腕利きの陶器師が、殿様の茶わん作りを命じられ、透き通る程薄い素晴らしい茶わんを作り殿様へ納めた。後日、殿様に呼ばれた陶器師はおほめの言葉を期待したが、要件は苦情だった。薄いので持つ手が熱くてかなわないというのである。「いくら上手に焼いても、使う人の身になって作らないと何の役にもたたない」ことの話である。

 物をつくること、売ることの基本は使って頂く人が末永く喜んで頂ける物をつくり扱うことである。この童話、つくづく木材商売のあり方について考えさせられた。

 国産材の需要拡大が叫ばれ、着々と進行している。喜ばしいことである。特に杉は道南から南九州迄全国で年々生長しており、間伐材でも樹齢30年以上、中には50年前後のものもある。杉の合板もかなり造られるようになった。

 私は杉が好きだ。そのやさしい肌ざわりは何とも言えない。しかし、木にはそれぞれ長所もあり短所もある。全ての樹種、そして同じ樹種でも産地や生育環境の違いによって、樹は微妙に異なるのである。
 ある大手市売問屋(東京ではない)が杉の平角を大々的に扱う計画があるとのことが業界新聞に載っていた。
 杉は非常に良い木材で、しなやかで折れにくい。しかし横架材として使うとたわむ惧れがあるのである。スパンが3尺、あるいは最大6尺位の桁角なら良いであろうが、スパンの長い平角の場合たわむ惧れがある。部屋の床が3粍、5粍、あるいはそれ以上たわんだら、施主からの苦情があるのではなかろうか。

 最近、中国木材はこの事に気づいて、杉と米松を混ぜた集成平角を造り売り出している。杉の柔軟性と米松の剛性が1本の平角に納められたので、この平角は多分普及するであろう。中国木材の鹿島工場は現在月間5万m3 の米松丸太を消費しているが、そのうち2万m3 が杉になれば、米松の輸入量が大幅に減ると思う。国産材時代にふさわしい取組みである。おそらく関東北部を中心に福島、宮城南部の国有林材との長期安定供給協定が出来ていることと思うが、東北地方には杉の合板工場もあり、ことによると、原木の取りあいになって原木価格が上がるかも知れない。現在の国産杉丸太価格は米栂丸太より若干安く、国内の林業家はどうにも生計が立てられず、山の手入も疎かになり荒れた人工林も多いので、材価の上昇で林業家が息を吹き返し、山の手入をしてくれれば有難いことである。また、ひとつある問題は、林業地に点在する小さな製材工場のことである。東京都の林業地は西多摩地域の奥多摩町、桧原村、そして日の出町や青梅市の西部にあるが、すでに廃業した製材工場も多く、それら地域では有力な少数の製材業者だけが残っているが、彼等は南多摩、北多摩、西多摩東部の建築業者と協力して、東京の木で家をつくるサークルを立ちあげており、着々と実行しているので、何とか製材を続けて行けることと思う。

 私達流材業者は、供給される木材製品を使った建物を購入した方々が、10年、20年後になっても、良かったなあと思って頂ける木材製品を扱い、普及しなければならない。
 現在、大量に流通している木材製品のなかには、構造材としては樹種的に疑問だと、個人的に思っているものもある。10年、20年後に万一問題が生じ、木造建物は腐るからこりごりだというような事態にならなければ良いがと心配しているが、取り越し苦労であれば幸いである。
 柱、土台、あるいは平角に適した樹種と内装材として適した樹種の区別は大方の木材業者は承知している筈である。売れる物を扱うのではなく、建物のために是非使って頂きたい木材製品を扱いたいと私は心を引締めている昨今である。


平成22年8月1日 記

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