東京木材問屋協同組合


文苑 随想

木材乾燥

馬田 勝之


 いまさら,木材乾燥か?と拒否反応を示された方にこそお読みいただきたい。
 これからまさに本物の木材乾燥と言えるものはどういうものなのかを意見申し上げたいと思います。
 木材乾燥を知らない方は,この業界にはいらっしゃらないと思いますが,乾燥機なんてどれも一緒と思っていらした方,天然乾燥が最高と思っていらっしゃる方,材木屋さんならば木材に関する知識として,これだけは間違った方向へ行かないように,改善されるべきことだと強く認識して頂きたい。「ユーザーに最高の状態の木材を供給する」ことが材木屋の使命であると,心に持っていただければ幸いです。
 この組合月報はまさに材木屋の知恵の結晶であって,皆さんの確かな情報源として活用されていると思います。「乾燥のことは理解出来ない」では,一般の方にどうやって木材乾燥について語れるのですか?もちろん反論は結構で,大いに議論されることに意義があります。
 
 乾燥材の出始めの頃,約20年位前は材木屋のほとんどが人乾材は良くないと言っていたはずである。材が堅過ぎる,色が悪い,粘りがない,天然乾燥した材が一番(状態が悪くなったものは除く),など。私自身も初めての商いで,エゾタルキの乾燥材を販売して材木屋さんの大工から「こんな使えない木材!堅くて釘は効かないしどうしようもない!持って帰れ!」と怒られた経験が・・・。
 以来,人工乾燥材とはそんなに悪いものなのかと思っていたが,そんなことを言っていては商売にならず,お客さんが求める人乾材(本当に良い物かどうかは別として)を販売していった。そして人乾材は認知され,流通品はほとんど人乾材以外全く売れない時代になってしまった。
 
 人乾材が使われる理由
 一つはプレカットの普及率が上がったことで,木が堅くてノミの刃がこぼれるとか,材料が悪いと言う大工がいなくなった。
 モルダーで仕上げ寸法が安定し収縮が少ない。
 表面がきれいになっている。
 軽いことで搬入や作業のしやすさや,積載問題などもちろんメリットが多い。
 
 では,乾燥材の何が問題なのか?
 高温乾燥されてできた芯持ちの柱角など,表面上はきれいに仕上がっているが,内部割れの問題は今も残っている。さらに,まだ高温乾燥材の経年変化はまだ結果も出ていない。80℃〜100℃で乾燥された木材は,本当に30年後・50年後大丈夫な材といえるのでしょうか。堅ければ強度は増すのでしょうか?コンクリートのようにいきなり崩壊してしまう材になっていないでしょうか?確かに乾燥させると堅くなりますが,低温で乾燥させた木材はとても引締まった筋肉質な印象です。
 
 では,なぜ高温乾燥になってしまったのか?
 それは低温乾燥では乾かないという挫折と,風で乾くという考えで進み過ぎた点だと思います。
 風で乾かすため,温度がどんどん上げていった。割れの問題を克服するため蒸気で温め,表面を割れないようにした。内部まで熱が伝わるように,マイクロ波や高周波を使用した。時間を早めるため減圧をかけた。さらに,早く乾かすため大型の送風機を取り付けた。
 高温乾燥機はオプションだらけである。しかし,このオプションをつけないと欠点だらけの乾燥材しか出来ないということだと思います。そのため必然的に高価な乾燥機しか存在しません。
 
 話は代わりますが先日,「5プライの集成柱よりも安くて背割れのない,国産の柱があれば是非どんどん使用したい」と申し出る年間200棟やっている建設会社の社長がいらした。
 「背割れのない柱を作る自信はある,しかし,メリットが一つもない。付加価値を上げるための乾燥機であって,価格勝負の商品をつくるのではない。」と説明。
 今の人乾材の柱とグリーン材の柱とどれだけコストの差があるでしょうか。売値以上にランニングコストの差が大きいので生産者はとても大変だと思います。
 
 乾燥材生産コスト
1.オーバーサイズの製材 105角の場合120角位に製材(この時点でグリーン材の105角であれば製品になります)材積3割増
2.桟積み天然乾燥(1週間位)
  乾燥機へ投入(1週間位)
養生場所の確保・桟積み手間賃
乾燥燃料代・フォークリフト搬入費
3.モルダーへ投入,105角 電気代・刃物代・加工手間賃
4.割れ反り等検品 不良材の発生
※設備費は除く

 現状の乾燥材立方単価は,単純にグリーン材の立方約1万円アップの単価である。これらのランニングコストが1万円の単価アップに全部入って,やっているとはとても信じられません。なぜ乾燥材は倍の値段にならないのでしょうか?儲けなしでも流通させる意味はあるのでしょうか?
 
 40℃で乾燥させてしまう技術は,木材乾燥の概念をくつがえす全く今までとは考えが異なる乾燥です。しかし,木材業者の皆様なら簡単に理解できます。
 自由水と結合水の動き,割れはなぜ起きるのか,温度は何℃が良いのか,湿度は関係するのか,風はどうする,圧力はどうかかっているか,木材に影響する状態をあげたらきりがない。しかしすべて把握したうえで乾燥の理論を持って下さい。
 
 先日,乾燥の問い合わせで「乾燥し過ぎて過乾燥にならないか?」との問い合わせを頂いた。「天然乾燥に過乾燥はありますか?」と聞き返した。「そう言われるとないなあ」
 「過乾燥」という言葉もどうやら高温乾燥機から生まれた言葉のようだ。
 低温乾燥の場合は長く入れ過ぎても高温乾燥機のように焼けただれることはない。
 「過乾燥」にはならないのです。
 
 もうそろそろ木材乾燥について興味を掘り下げてもいい頃ではないですか?
 割れ止にボンドを使う時代も終わっています。乾燥の妨げをしない割れ止がしっかりあります。

 現状は
 木材製品の販売もプレカット・大手直需販売による現場配送に取られ,
 大手の木造住宅の広告宣伝は木の家を猛アピール。
 こだわりの木造住宅は建築家の先生に牛耳られ意見も通らない。
 更に木材の得意分野までネットビジネスに奪われています。
 
 良い乾燥木材を現場に納めること。木材の普及には値段よりも大事なものがたくさんあります。今は,とにかく忙しくなってほしい!儲かる仕事が増えてほしい!これだけではさらに異業種にシェアを取られてしまいますよ。
 文中にも申し上げましたが,これからの材木屋の使命とは「ユーザーに最高の状態の木材を供給する」ことだと私は思います。

 

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