東京木材問屋協同組合


文苑 随想

渋沢栄一に学ぶ(4)
−その貴重な言葉−

榎戸 勇


 渋沢栄一は国力を充実させ、国を富ませるためには農工商、なかでも商工業を盛んにしなければならないと考えて実業界に入った。
 フランスを中心に欧州で見聞した資本主義経済の姿を見て、資本を集めて会社をつくることに尽力した。会社を経営するために一番大切なことは、会社を切り回す人材である。
 渋沢は事業上だけでなく、個人として守り行なう倫理の規準として、論語を据えた。富を得るのは正しい方法でしなければならない。外れた方法で得た富は長続きしないと教えたのである。

 渋沢栄一は大正5年頃、『論語講義』という大著を完成した。その本は国会図書館や一橋大学図書館にはあると思うが、私はまだ見たことがない。幸い私は一橋大学図書館で本を読むパスポートを貰ったので、暖かくなったら一度行きたいと思っている。
 しかし、三笠書房から『渋沢栄一「論語」の読み方』という本が出版されているので、その本にある渋沢栄一の言葉をいくつか述べてみたい。

 「日々勉強してよい友をもつ、これが人生最上の楽しみ。よい友と切磋琢磨すればお互に益々進歩する。本当に愉しいことである。」
 私(榎戸)は昭和26年、まだ一人者の時に十日会という集まりを、酒井利勝さん、白坂鐘蔵さん、氏橋幸次郎さん、江間泰一さん、大堀雅義さん等とつくった。月1度のこの集まりで私は色々のことを学んだ。亡くなった方も多く、今は僅か5人(他に休会中3人)だが、現在も毎月集まって夕食を食べながら色々話している。結成以来60年になるが、本当に楽しい会であり、そして勉強になる。有難いことである。

 「人を選ぶとき、家族を大切にしている人は間違いない。どれ程知恵があっても、その知恵に親切なところがないと悪知恵になることが多い。私(渋沢)は人を使うとき、知恵の多い人より人情に厚い人を採用している。親兄弟を大切にしている人はまず間違いない。」

 「三省のすずめ」私(渋沢)は夜床についた時、その日にやったことを回想し、人のために忠実に行動出来たか、友人に信義を尽くしたか、孔子の教えにはずれた点はなかったかを反省している。人のために忠実、友人に信義を尽くしていれば、人からうらまれることなく、家業が栄えるのではなかろうか。

 「義を見て為さざるは勇なきなり」(孔子)
 「こうすることが正しい道だと知りながら、自分の利益を考えて、これを行なわないのは勇気のない人間である。孔子は仁を説き、孟子は義を説いたが、義を尽くせばおのずから仁に達することができる。仁と義は決して別個のものではない。だから義を尽くして生活すれば仁も達成できるのである。」
 私(榎戸)はこのことをつくづく考えた。
 地下鉄へ乗っている時、隣に母親と5才位の男の子が座っていた。車内の座席は塞がっており吊り革につかまって立っている人がチラホラ居る程度であった。そこへヨボヨボのお婆さんと、多分娘さんと思う初老の婦人が乗ってきた。それを見て隣に座っていた男の子の母親はすぐ立って、お婆さんに席を譲った。お婆さんは何度も礼を言いながら席に腰をおろした。私は席を譲ろうにも杖をついてやっと歩いている身なので、譲ることは出来ないが、席を譲った男の子の母親は立派な方だなあと思った。このような母親に育てられた子はきっと思いやりのある素晴らしい人になるに違いないとつくづく思った。
 子は親の背を見て育つ。親が気がつかなくても、子供は親のやることを見ている。従って親が人のため、世のために些細なことでよいから日常行なうことが、一番よい子育てなのである。

 渋沢栄一の言葉に教えられると、私(榎戸)の日常生活は反省することばかりである。とても渋沢栄一の教えのような行動は出来ていない。これからは毎晩反省して、渋沢栄一の心に百分の一、千分の一でも近づきたいと思う毎日である。

平成22年12月5日 記

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