東京木材問屋協同組合


文苑 随想

渋沢栄一に学ぶ(5)
−その名言、そして現在を考える−

榎戸 勇


 「学問をするのは自分の修養のためであって、人に知られるためではない。」知らないことを知ったかぶりせず、言うことに間違いがなく、行うことに誤りがなく、言行一致でなければいけない。常に向上心を忘れず、変な気を起さず、(投機的なことに手を出すようなこと)自己省察を怠らないことが大切である。

 「ただ父母に衣食の不自由をさせないだけでは十分に孝行したとは言えない。家で飼っている犬や牛でも十分な食物を与えて犬小屋や牛舎で休めるようにしている。本当の孝とは、そのうえに親に対しての敬愛の心がなければならないのである。」

 「孔子の人物観察法は視・観・察の3つである。」
 まず第一にその人の外面に現れた行為の正邪善悪を視る。第二にその人の行為の動機が何であるかを見極め、そして更に一歩を進めてその行為の落ちつくところはどこか、何に満足しているのかを察知すれば、必ずその人の真の性質が明らかになり、いかに隠しても隠しきれるものではない。
 外面に現われた行為が正しくても、その動機が売名や名誉欲等、その動機に不純のところが有れば、その人は決して正しい人物とは言えないのである。

 「つまらぬ泥試合で精神を消耗してはならない。世の中全て陽あれば陰がある。それをお互いに攻撃しあっていたのでは精神が消耗するだけである。」孔子は「異端を攻むるは、これ害のみ」と言っている。つまらぬ泥試合はやめた方がよい。

 小沢氏のことで議員先生達がゴタゴタしているが、何とかならないものだろうか。
 政治倫理、政治と金の問題は大切ではあるが、それで小沢氏を責め、そのことを内外に広く広めればそれで十分なのではなかろうか。国民は馬鹿ではない。恐らく次の総選挙では小沢氏本人は当選するとしても、所謂小沢チルドレン達は苦しい選挙になり、当選が難しいのではなかろうか。こんなことで何時迄も争っているのは時間の無駄である。孔子の言う「異端を攻むるは、これ害のみ」である。
 それよりも国政にはさし迫った重要な問題が山積みしている。円高のため大企業は生産拠点を次々と海外に移している。それに伴って下請け孫請けの業者も海外移転を始めている。国内はリストラされた人々、大学を出たが就職できない人々が溢れており、社会不安の源である。早稲田中高で私の孫(25歳)と仲が良かった友人が昨年自殺した。彼は成績優秀で早稲田の政経学部へ進み卒業したが、就職先でのトラブルで「ウツ」になりボンヤリとしていて何となく死にたくなって死んでしまったらしい。孫は通夜に行ったが両親の悲しみに接し、お悔みの言葉が喉につっかえ、涙がこぼれてどうしようもなかったと言っていた。
 自殺者が年間3万数千人、大変な世の中である。国会の先生方は、そして政府は、このような世相を見て、その解決のために全力をあげて取組む必要がある。小沢問題でゴタゴタしている暇はないのである。先生方の動きを見ると、次の総選挙で自分が有利になるために右往左往しているようにしか私には思えないのである。先生方は常に大義名分を考え、損得ではなく正しいと信ずる道を進んで行って貰いたいのである。戦後のワンマン首相(吉田茂)は我国のためにはこうすべきだと思ったことはGHQ(占領軍最高司令部)へもズカズカと行って自論を陳べ一歩も引かなかったと、ある政治評論家から聞いたことがある。なけなしの予算をバラ撒いて人気取りをするのではなく、現在我国にとって何が最も重要なのかを考えて行動して貰いたいのである。少子高齢化対策も重要課題、若いお母さん方が安心して子供を産めるよう、子供を預けて働きに行けるための施策も大切である。
 現在の我国にとって最も重要な課題について与野党胸を開いて、自党の損得を離れての協議をお願いしたいものである。

平成23年1月3日 記

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