東京木材問屋協同組合


文苑 随想


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其の93 「金工III・宗E

愛三木材(株)・名 倉 敬 世

 いよいよ今年も虫の音と共に夏が終り、収穫の秋、芸術の秋となり各地でそれに向けて様々な催しが盛んに開かれております。皆様も興味を持たれた作品を目の当りになされて、生きていて良かった、日本に生まれて良かったと団栗眼を瞬かせた事と存じますので、今回は先にお約束を致しました、この深川・木場に大変に縁のある、町彫りの大家である「横谷宗E」をご紹介致しましょう。

横谷宗E
 

名は友周遯庵と号し、俗称は治兵衛。町彫りの初祖。
寛永年間に京都新町武者小路より江戸に下り後藤殷乗門に入る。
(殷乗はお家彫りの後藤本家七代顕乗の三男にして光富と称す)
 正保年中に彫物御用仰付けられ、蔵米200石+十人扶持を賜り、神田・檜物町に住す。当初は後藤家風(御家流)の作風であったが、その後に思う所ありて扶持を辞し、専ら町彫りを営みその絵画風の技芸の精妙なる事、祐乗以来の名人と評され横谷派を創立する。
 初期は狩野派の下絵で制作をするが、その後は英一蝶(元禄期の日本画家・多賀朝湖)のサロンに入り、当時を代表する各界のトップと交わりその感化にて絵画的彫金の片切彫を編み出す。片切彫は毛彫りの一種で彫った縁が一方は垂直で他方は傾斜してレの字になる彫り方を云う。宗Eは刃先がV字形の鏨を考案し、これで彫れば溝がL字に近くなり巾も広くなる。この新手法を使い写実的な構図を考案した。これが日本画における立て付けの技法を彫刻に写したもので、たちまち彫刻界を風靡するに至った。為に宗Eを片切り彫の元祖と称える様になり、司馬江漢でさえ初めは金工になろうとしたが、宗Eの彫りを見てこれ以上の彫りは出来ないと諦めたと云う。

 
一輪牡丹の図目貫 無銘 横谷宗E作 金無垢 容彫 丸根 力金三角  
横谷宗E下絵帳から
 

 宝永(1704〜10)の頃、紀ノ国屋文左衛門、宗Eに牡丹の目貫を頼み手付を十両渡すが、三年を過ぎても出来上がらぬ為、紀文は頻りに催促せしを,宗Eその態度が気に入らず、 手付金を戻したれど、その後ややありて出来上る。然れども宗Eその目貫は代価を伏せて紀文と同じ木場の富者某に贈る。富者某は深謝し50両を謝礼とした。宗Eはその心根に 感じて、それ以後、生涯に亘り二度と牡丹の目貫は彫らなかったという、故に宗Eの此の目貫はこの世に二つと無く、以来、伝世の名物となれりと云うが、以下の図は宗Eの物と云われていたが、現在ではこれは戸張某が彫り銘も切った写しであると云われてますので、

 
宗Eの一輪牡丹の図
 

 次に宗Eの作品を載せて置きますので、ジックリご鑑賞の程をお願い申し上げます。

 
横谷宗E作 烏銅金紋獅子五所揃
 
仁王図二所物 横谷宗E作 片切り彫り
(起竜斎宗Eの小柄)
宗E作
向獅子魚子池赤銅小柄
縦ての図柄の創始者

 先程の一輪牡丹の購入者とは誰あろう、「冬木町の名付け親、冬木弁天の講元」で開拓地主の冬木屋(上田直次・1654・茅場町にて開業・武州松山城主上田氏の子孫)の事でご猿。当時の資料では、紀文や奈良茂(奈良屋茂左衛門)より富者のランクは冬木屋の方が数段上、当初よりの地主だが357年に亘り町名が一度も変わらなかったと云う事も奇跡に近い。
〜直次が夢に見た、竹生島の弁才天のご利益に違い無く、材木屋の氏神に相違ござらん〜。

 因みに、冬木屋は江戸中期に商売を畳み、生活の基を家作の上がりとしたが、猿大名に融通した大金が返金されず、大難儀をされる事になる。それが幕末(慶応三年)の事でご猿。その大名は、永井遠江守。その他に盗賊に入られダルマ船一杯の貴重品を盗まれたとの事。現在は江戸川区にお住まいですが、以前より冬木様の依頼を受け資料を整理して居ります。調査範囲が縮小するどころか益々拡大の一途ですので、何時ENDになるか見当も付きませんが、現在は知力(古文書)体力(目力)の勝負に成って来ております。参考になりそうな資料がございましたら、お知らせ頂ければ多謝の限りであります。
 安中/板鼻(聞名寺)・広徳寺(練馬)江戸川・深川・永代、箱根(旧街道の墓地)迄は廻っておりますが、残りが京都(大徳寺)・松江(松平不味公の茶器)・新潟(前田育徳館)・上野(東博)・名古屋(徳川美術館)・メトロポリタン美術館、アルバート・ホール(ロンドン)。

文福茶釜の裏図 銘 竜法眼(花押)
狸の腹鼓図留守模様鐔 銘 四子隆生 寿叟法眼(花押)

 この天に向かい腹鼓みを打って惚けている狸の名前は「永井遠江返さずの守」と申します。
読者の中に縁者が居られましたら、金利は0で結構ですよってヨロシクお願い致します。


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