東京木材問屋協同組合


文苑 随想

材木屋とエコ 環境 省エネ(第1回)

『例えば、もみがらエコボードとの出会い』

(株)コバリン 奥澤 康文


 私は、江東区深川の材木問屋で働き始めて、約10年になります。今は昔。30数年前、林業関係の学校を卒業して、長いサラリーマン人生も終盤となってきました。年齢的なせいか、日本の伝統文化や歴史、更に、自然の美を改めて再認識をするようになりました。その為、色々と回想したことや思い付きが少しばかりでてきましたので、この場をお借りして、雑文調で書かせて頂くことにしました。

 昨今、日本の現状・将来に関して悲観的な論調が支配的な中、少し視点を変え、そして、海外での生活体験も踏まえ、改めて、日本の良さを見直すことも必要と感じています。たまに、「東京大江戸博物館」に行くことがありますが、過去数百年の歴史をしみじみ回顧すると、学ぶものは多々あります。日本も、まだ、まだ、捨てたものじゃないですよ!!

※沖縄方面の美しい自然(新緑と眼下に広がる海)

 また、日本人は悲観論者が多いと言われますが、政治・経済共に依然、混迷と不安が目前にある。最早猶予はできない事態であり、ある意味では、今年は大変に重要な年になるのではないか、といわれている。リーマン・ショック後3年目となり、大企業間では、薄日が差してきたと言われていますが、まだ、中小に及んでいるとは言い難い状況で、引き続き、不透明であり、極めて厳しい舵取りが要求される年となっていると感じています。

 さて、昨年秋、尖閣列島沖で、「中国漁船衝突事故」があった。その関係で、中国からのレアメタル(稀少金属)やレアアース(稀土類元素)が一時輸入ストップとなり、世界的に深刻な影響が出た。しかし、或る程度、在庫もあったことからパニックにならなかった事だけは救いである。その後も、輸入量は削減されたまま、価格は高騰している。又、年初から、中東諸国の政治情勢が不安定となり原油価格は急騰し、他の原料・資材・食料等も、価格が大きく上昇している。加工貿易を生業とする日本としては、一難去ってまた一難、と言ったところだ。

 とりわけ、将来的に深刻なのが、レアメタルやレアアースであり、他国での振替増産ができないため、大きな不安材料となっている。資源の無い我が国では、電子部品類の製造が制限される事態を招来するからだ。従って、日常、ありふれたものを有効利用することが、将来の日本を救う道だとマスコミが報道しているのが目立つ。いわば、こうした窮地に追い込まれて、創意工夫を発揮するのが日本人の得意な分野かもしれない。災い転じて福となすことができれば、将来的には楽しみなことだ。

 日本は小さい島国(面積37万km2)だが、経済水域は世界第5位の広さを有する。日本近海に大量に存在するといわれる、「メタンハイドレード」を始め、我々の身近にあるものから、レアメタル類が回収できるという事も嬉しい事だ。実用化までには時間と課題があるが、研究段階では既に成功している。

日本にも大量に存在する将来的に有望な資源(最近、「日経新聞」等で見かける情報の要約)

原料名 抽出した材料 期待される用途
日本近海の海底地層 メタンハイドレード
(シャーベット状のメタンガス)
燃料(採掘方法が課題)
(日本の需要の約百年分)
シリカ 高純度シリコン
(太陽電池の主要素材)
セメント アルミナセメント レアメタルの代用
(ニッケル、モリブデン)
都市鉱山(廃棄された携帯電話や家電製品等より) 金、銀、鉛、インジウム、
アンチモン他
抽出方法が課題。埋蔵量は
決して少なくない。

 又、砂・木から電子材料を、そして、日本を「ユキビタス資源 」大国へという記事が出ていた。(平成22年10月25日「日本経済新聞」)材木からこのような貴重な資源が抽出できるとは驚きました。長年、林業・製紙・材木関係の仕事をやってきた私としては、望外の喜びです。日本の森林率は、約66%で、世界第2位である。戦後、人工造林をしてきた山林が成長し伐期を迎えており、木材蓄積量も増大し、今後は搬出面が課題だ。
 さて、手前味噌ではありますが、当社では、以前から、木材以外の商品に関心・興味をもちながらも、具体化する事がありませんでした。しかし、昨秋から、標題の「もみがら エコボード」の販売元となった。ここは、宣伝をする場所ではありませんが、既に、「朝日新聞」や「日刊木材新聞」、そして、テレビ等でも幅広く紹介され、一般情報となっておりますので、簡単にご紹介させて頂きます。

 私が今回強調したかったのは、稲の収穫後の脱穀時に発生した「もみがら」は、毎年全国で約200万トンも排出され、農家にとって、厄介な農業廃棄物でしかなかった。そこで、秋田の兼業農家の男性が、しばし逡巡しました。誰も見向きもしなかったものから、あるひらめきを得て、数年間の構想の後、昨年夏からようやく実用化を開始したものです。

 森林がCO2を吸収する事は、知っていましたが、材木屋である当社が、「朝日新聞」に掲載される様なエコ商品の販売元になるとは、全く予想さえできませんでした。開発者の鈴木社長と同様、兼業農家出身の私としては、何やら琴線に触れるものがあり、又、子ども心に、農作業を手伝った当時の辛い思い出が、熱く、懐かしく込み上がってきます。

 当時も今同様に、子どもは勉強嫌いが多く、当然苦手な先生や、いじめっ子もいましたが、それでも、家で農作業を手伝うことに比べたら、学校の方がはるかに楽でした。貧しさが、ある種の修身教育になっていたのかもしれません。昭和30年代、農作業が機械化される以前は、過酷な長時間の重労働であり、特に、児童には苦痛そのものでした。それでも、仕事を始めると子供心に欲が出てきて、一生懸命に家の為に働いたものでした。それに比べ学校は、少々問題があっても給食はあるし、楽チンでした。だから、登校拒否もなかった時代で、親の言うことを聞かなければ、食べるものがもらえなかったわけです。
 さて、話題を戻します。この新商品は生産・販売を始めて間もないため、とても、まだ採算がとれる状態ではありません。しかし、これを一例として、同種の開発が続くことを願う私としては、これが大河の一滴となればと思い願う素朴な気持ちです。

※兼業農家が、お米の「 もみがら 」から作った商品です。(=CO2を、約1.4kg削減) ※秋田県立図書館「絵本の部屋」に施工させて頂きました。(平成23年1月7日)

 日常生活の快適さを優先させるあまり、どこかに忘れかけていたものを思い出させる良い起爆剤になればと思っています。燃えにくく、腐りにくい農業廃棄物を再利用し、生活環境を自然素材で、優しく改善することができる。そう思うと、なにやら、私も、もう一頑張りをせねばという気持ちがでてきて、新たな創意工夫への情熱を感じてしまいます。

※砂・セメント・木等国内に存在する原料で、半導体や電子材料を作る事


平成23年2月26日(土) 記

前のページに戻る

Copyright (C) Tokyo Mokuzai Tonya Kyoudou Kumiai 2011