東京木材問屋協同組合


文苑 随想

材木屋とエコ 環境 省エネ(第28回)

木材利用推進セミナー『木材復権への挑戦』

(株)コバリン 奥澤 康文
http://www.kobarin.co.jp


日時及場所:5月9日(木)13:30〜15:30
      日経カンファレンスルーム(千代田区大手町)(出席者:約400人)
主催:次世代木質建築協議会
共済:おかやま緑のネットワーク、美しい多摩川フォーラム、美しい山形・最上川フォーラム
後援:林野庁、東京都、東京都森林組合、東京建築士会

1)主催者挨拶:次世代木質建築協議会 会長 柴田 洋雄 氏
・木材関連産業の経済規模は、ドイツ20兆円、日本30兆円で、もう少し上げられる余地が有。山形県は、現在2500億円だが、将来は3000億円を目標とする。
・地域調達を5%増やすと、山形県だけで100億円の経済効果により700人の雇用が可能。これが全国に及べば相当な額になる。その為には、川上と川下の連携が重要。
・林野庁の計画では、国産材の利用率を、現在:27% ⇒ 50%(2020年)⇒70%(2050年)。
・木材利用の壁(耐火性と接合強度)が新規の技術向上により崩されつつあり歓迎する。
木の良さで地域を元気にする。同時に、技術開発で木の魅力を高める。
・上記の構想を林野庁に具申した所、山形県を起点として全国展開してくれとの要請を受け、3年前から(株)シェルターと連携、各地で社会に貢献できるセミナーを開催中で現在に至る。

2)山形県南陽市 市長 塩田 秀雄 氏
・皆さん知らないと思いますが、場所は山形市と米沢市の中間。東京から350km、新幹線で2時間20分。人口3.3万人。市の観光や産業は配布したパンフレットをご覧下さい。私の山形弁で聞きづらいかもしれませんが、これでも市役所内では、最も標準語に近いと言われております。(と切り出し一同から笑いを誘い、話の中に引き入れるトップセールスの実体験を披露した。尚、塩田市長は、日刊木材新聞社の「5月の顔」に選出された。)

◇       ◇       ◇

・日本林業の荒廃を憂慮している。山の立木価値は、昭和55年:25000円/m2、現在:2500円/m2。約1/10に下落し、手入れのコストが出ないし、又、誰も山に近づかない。蔓(ツル)系の植物が繁茂し酷い状態で、降雪で倒れて山林が消失する事態になっている。
・山を買う人を斡旋する人もいて、誰も山の再生なんて考えていない。既に、山がボロボロ。当然、地すべりや洪水の懸念もあり、何かいい方法はないかと考えてきた。
・そこで、地元の吉野石膏やJX(日鉱)等から資金提供してもらい、山を整備してきたが、本格的な経済活動にはならないと気付いた。木材の需要につながる仕事を作らなければダメだと決断。過疎化で、小中学校の統廃合が進展し、7 ⇒ 3校へ。廃校後の地域の核作りを痛感。
林野庁の木材利用促進の取組に合致すれば、補助金が出ることを知り事業化を考案。地産地消を推進、即ち、地元の建物を地元の木材で、地元の人で作る事を夢見て奔走してきた。
・林野庁に太いパイプを作り、総工費45億円の工事費の大部分を補助金でやることになった。補助金申請の条件も厳しく、先導的、先進的なものが最低条件だったので相当苦心した。
・老朽化した市民文化会館(昭和45年)を新築する。市民への啓蒙活動の為にプロジェクトチームを作った。需要につながらないと経済活動につながらない。時間がかかったが、大型木造を建設開始。3000m2以上の集会所には、耐火建築物の許可が必要で、耐火基準を重視した。
(株)シェルターの特許技術で、広さ6000m2の施設の建設を開始した。木材は地元産の杉材を約8000〜10000m2使用する為、直ちに伐採に入る。これは地元の2市2町、広さ1100km2の人口17万人の町で生産する木材の約3年分に相当する膨大な量。日本初の大型木造施設になる。
・高額の補助金は大変有難い。準備や申請が遅れれば、これだけの補助金が出なかったと思う。山はまだまだ生かせると確信する。最近、人が山に戻り始めていることを歓迎している。

3)(株)シェルター 取締役統括部長 安達 広幸 氏 (山形市) 
 安達氏は2台のプロジェクターを駆使し、世界各地の様々な大型木造物件を丁寧に紹介した。
・木材の耐火技術向上の結果、大型木造建築物が急速に増加。欧州は地震も少なく、一歩先んじている。9階建てで 10000〜20000m2のものまで既に建築されている。
・プレカットの機械技術も日本より欧州が進んでいる。フランスのドゴール空港でも、外観は鉄筋コンクリートだが、内装に木材が多用され安らぎを覚える。評判は上々で印象的な空間。
・日本の森林では、木材が年間で8000万m2成長する。しかし、使用量は少なく、年間成長量の1/4〜1/5程度で極めてアンバランスな状態だ。昭和55年当時の約40%しか利用していない。林野庁が主導しているのは、国産材の自給率は現在27%だが、2020年に50%へ向上を目指す。
・日本の木造建築は世界最高の技術と伝統があるが、太平洋戦争、地震、台風等の損害と反省から、市街地での大型木造建築物が法律で禁止されてきた。理由は耐火性、耐震性、材質強度が担保されなかった為だ。しかし、この半世紀で技術が大幅に向上により状況は一転した。3年前、公共建物木材利用促進法が施行、世の中が木質化に向け本格始動し現在に至る。集成材(エンジニアードウッド)の技術革新は目を見張るものがある。
・「地産地消主義」の考え方が全国的に拡大・浸透中で、経済環境的にも重要な価値がある。木は適齢期に伐採しないと腐敗し山が荒廃する。腐敗するとCO2が大気中に排出される。木造で、何百年ももつ建物を作れば、CO2は木の中に長期間固定され温暖化防止に貢献する。
・山形県では、将来の木造率をどうするか等の指針ができているが、できていない県もあり温度差は大きい。山形県のHPには、木材の自給率を5%上げる事で、70億円の経済効果があり、400人の雇用が生まれると試算する。更に、生産の相乗的な影響が出れば、効果は、100億円にもなり得ると試算。全国規模で循環・展開すれば、莫大な経済効果が期待できる。
昔から、林業は危険で汚い等と言われてきたが、産業構造の転換期に来ている。経済拡大の波及効果も大きく重要だ。又、木造施設は学校の先生や役場の人達からも、コンクリートに比較し気持ちが安らぐだけでなく、木は柔らかくて足や体が楽だ、との高評価を得ている
・最近、35歳以下の林業労働者が増加しており歓迎できる。しかし、製材工場では年間で2000m2以下の工場が、全体の65%を占めており依然問題は多い。当社は川上と川下を仲介します。

以上

◆後書き◆ (株)シェルターでは、平成25年1月、木材と不燃材(石膏ボード)で、1時間耐火試験をクリア。現在、国土交通省に、1時間耐火の大臣認定を申請中。早ければ、6月にも取得の見通し。これが可能となれば、木造建築の可能性が更に拡がると期待する。又、木造の高層ビル建築につながる、2時間耐火の大臣認定に向けた研究開発も進展中。
 セミナー当日の晩、テレビWBSで「国産木材の逆襲と脚光」の番組が放映された。最近では、政府関係及びマスコミの支援も有、この種の前向きな報道や話題が増加、世情の変化を痛感した。


2013年6月1日(土) 記

前のページに戻る

Copyright (C) Tokyo Mokuzai Tonya Kyoudou Kumiai 2013