東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(103)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 去る7月30日、友人2人の来訪がありました。建設省に勤務後、ゼネコンO社に専務として活躍したT氏。スーパーゼネコンに勤務後、足利工業大学で教鞭を執る傍ら、20程の公職に関わって活躍しているK氏。
 私達3人は、大学の理工学部土木工学科を昭和38年に卒業した同期生です。
 昨年10月同期会があり、隅田川をクルーズして、十二橋を巡って下から眺め、スカイツリーに登って上から眺め、更にレインボーブリッジを高速で渡り、東京ゲートブリッジの袂で降りて、歩道を中央まで歩き、最後は新装間もない東京駅のステーションホテルで歓談するという企画が好評で全国から40人以上の学友が馳せ参じて旧交を温めました。
 偶々、T氏と帰途が同じ方向で、中央線、小田急線と乗り継ぎ、それでも別れ難く、成城学園前駅で降り、しばし盃を重ねた後ようやく別れました。車中では、藻谷浩介著『里山資本主義』を読んで感銘を受けたこと等で話が盛り上がりました。後日、木材活用推進協議会発行『木をめぐる対話十』を送付した処、最近になって(木のシンポジウム6「木材会館を設計して」山梨知彦)に大変興味を抱き、K氏を誘って猛暑の中、新木場にお出ましになりました。
 木材会館は、設計者、建設業者、所有者の東京木材問屋協同組合が建築業界で権威ある表彰を受けたことをお2人は周知されておりました。今でも来訪者、見学者が連日絶えることがなく、御多忙中にも拘わらず、事務局長の中原さんが、約1時間に渡って丁重に説明、御案内を頂きました。
 その後、完成時には満杯でありましたが、今では丸太が一本も浮いていない水面貯木場を御案内し、深川から新木場に集団移転した経緯や、木材の需給等についてお話して、門前仲町へ繰り出しました。
 新鮮な刺身と量の多さで有名な「魚三」へ行きますと、店は千客万来で、4階の片隅にやっと、3人分の席を用意してもらいました。
 後から客が押し寄せて来るので、制限時間は90分です。
 T氏は10年前にリタイア、私はゼネコン勤務5年足らず、K氏の建設業界に於ける活躍は我々の仲間では群を抜いており、学会、業界で豊富な経験と研究による知識で、多方面に渡って熱い思いを語ってくれ、90分の制限時間は瞬く間に過ぎてしまいました。
 別れ際に頂いた「2013年発表著作物年報」を後日繙いてみますと、学術論文、解説、建設論評などが50頁のA4版冊子に満ち溢れておりました。
 今回はそのうち、私が興味を魅かれた事項について、感想も含めて探訪します。
 その1.K氏特別寄稿「リーン・コンストラクション研究の現状と展望」より
 リーン・コンストラクション(Lean Construction)Leanとは「瘠せた」意から転じて「贅肉がない」との意になります。リーン生産方式が生まれた動機はトヨタ生産方式にあります。
 トヨタ生産方式(TPS)は主にヘンリー・フォードが開発した戦前のアメリカ自動車産業の生産方式を研究した豊田喜一郎が提唱していた考えを、配下の大野耐一や鈴村喜久雄などが体系化したものです。トヨタ生産方式は、ジャストインタイム或いはカンバン方式とも呼ばれ、工程の中で無駄なく部品を調達し、生産の効率を上げました。リーン・コンストラクションは1960年代にアメリカからもたらされたネットワーク方式による工程表の作成と、この工程表をもとにして実施される工程管理による効率の向上が目的であります。具体的には、PERTTIME手法によってコンピューターにより最速の工程を導き出します。小生も学卒後ゼネコンに5年間在籍した経験があり、先輩社員からPERTTIME手法について訊いたこともありますが、実際に体験するまでには至りませんでした。
 その2.K氏某団体連合会会長選任の挨拶より
 今建設業界で大きな話題になっていることは、2020五輪招致による施設の建設と、2011.3.11東日本大震災の復興である。しかし長い目で見れば一過性の問題と云える。それよりも、近い将来かなり高い確率で来ると云う、南海トラフ直下型地震の対策、地球規模の、今まで経験したことのない異常気象による水害の対策などに関する課題が技術者の双肩にかかっている。
 当社も有明に開発途上の土地を持っており、五輪施設の建設を含んだまちづくりが進行して居り、大きな夢がある反面、防災対策など切実な課題もかかえております。
 その3.K氏による建設時評 5つの教訓より
 昭和50(1975)年、総合誌の2月号にきわめて刺激的な論文が掲載されました。その論文は、高度経済成長を遂げ、繁栄を謳歌し、やがてはアメリカを追い越すかも知れないと夢見ている時代であっただけに、突然冷水を浴びせられた感がありました。やがて迫る内部崩壊の危機に警鐘を鳴らしましたが、その後わが国が辿った歩みを振り返ると、当を得ていたと云えるのではないか。
 古代ローマは、その豊かさの代償ゆえに、放縦と精神的堕落に陥り、遂には自律精神を喪失し、エゴと悪平等主義とインフレのなかに、魂の内側と社会の最深部から腐敗して行きました。そして第二のローマ帝国の道を歩みつつあるかに見える日本社会が同じ轍を踏まない為には、歴史から5つの教訓を学ばなければならない。5つとは、@既得権の執着 Aお上依存 B大衆迎合 C若者揶揄 D金銭重視である。
 昭和50年、我が国は高度成長期で、二度のオイルショックを克服しました。昭和49年、住宅着工戸数は未曾有の190万戸を記録、地価は高騰し、この頃@銀行は潰れない A土地は値上りし続ける B経済は成長し続ける と云う神話が生まれました。1989年、日経平均株価は39,000円を記録、やがては70,000円にまで昇りつめると云う経済評論家も居りました。
 平成以降は失われた20年と云われ、平成20年、前年のサブプライム問題に端を発し、リーマンショックで世界同時株安となり、日経平均株価は7,162円まで下落、平成21年自民党政権は崩壊します。
 K氏は、「日刊建設通信新聞」に論説委員として定期的に論文を発表していますが、
2013. 1. 5 地域振興と観光開発
2. 8 砂漠に散った企業戦士
  9. 12 東京五輪の招致成功
  11. 8 震災遺構を残す意義

震災遺構を残す意義は大変興味深く読ませて頂きました。
 最後にK氏が国土交通大学で教材に使った海外工事の写真を添付します。@泰緬鉄道は日英合作「戦場に架ける橋」の舞台となりました。Aシンガポールはカジノ等で世界で注目されている都市です。


戦時中の戦地における工事
泰緬鉄道 新設
南方総軍鉄道建設連隊 1943

国際入札による工事
シンガポール ケッペルトアスドック 新設
鹿島建設 1983



前のページに戻る

Copyright (C) Tokyo Mokuzai Tonya Kyoudou Kumiai 2014