東京木材問屋協同組合


文苑 随想

材木屋とエコ 環境 省エネ(第59回)

夢見る80代シニアとスマートフォン

(株)コバリン 奥澤 康文
http://www.kobarin.co.jp

 1月31日(日)午前10時。冬晴れの穏やかな日和の中、埼玉県川口市内の緑豊かな金剛寺(曹洞宗)で親類の告別式に参列。当朝は、急遽、岩手の叔父夫妻が上京する為、JR大宮駅改札で出迎えた。駅からタクシーで向かう車中、今年82歳の叔父(以下K)が器用に指先でスマホを操作するのを見てビックリ!恥ずかしながら私はまだガラケー。Kは、栃木から岩手に転勤し其の儘幾星霜、元々好奇心旺盛でメカにも強くWindows 85頃よりPC歴は30年になる。東日本大震災からもうすぐ5年、岩手南部の内陸でも直後は相当混乱したが、隣組の協力や物々交換で困難な日々を乗り切ったと言う。


写真上のK夫妻は、当日朝5時起き、一関から大宮迄新幹線で、約1時間半の長旅でお疲れの様子。午前9時、山門前でポーズするK夫妻。
Kは、会社在職中から始めた趣味の書道、墨絵を近隣の人々に教え、今でも時々継続。又、老人クラブの会長も引き受け多忙な日々を送っている。
Kは、母の10歳年下の弟で、子供の頃から家族ぐるみで大変にお世話になってきた。約半世紀前、私はKから、「デール・カーネギー」の本をもらい、後日、その本が縁で、米国駐在へと道が開けた。

 尚、Kの奥様(80歳、雰囲気は歌手の由紀さおり?)もユニークな経歴の持ち主。昭和20年代、女子高の生徒会長をやった女傑で、「算盤」を武器に人生の荒波をクロールで巧みに遊泳。長年、複数の珠算塾経営と近隣商家の経理をサポート、堅実な家庭を築いた。社交的な珠算の高段者で地域に広く貢献。今でも自宅脇の大きな離れで珠算を教える傍ら、趣味や幅広い交流にも余念がない。高校時代にご馳走になった三陸産の新鮮な「握り寿司」が忘れられない。
 又、数年振りに叔母(71歳、母の20歳年少の妹F、雰囲気は歌手の島倉千代子?)にも再会。佐野市の商家に嫁いだ頑張り屋のFは、長年精魂を傾注し店を繁盛させ息子夫婦にバトンタッチし、時々仕事を手伝い悠々自適。中学生時代にご馳走になった、「天ぷらそば」と「しんこ饅頭」が美味かった。
 目を閉じると、昭和30年代の懐かしい面影が、まるで走馬灯の様にくっきり蘇る。当時は、大部分の人が貧しく生活も不便で不衛生だったが、皆が生き生きしていた様に感じる。当時小学生の私は、今回亡くなった叔母(T:85歳、母の弟の奥様)から、夏の鍋山で甘い「スイカ」と「エルビー」をご馳走になった記憶が蘇り、故人が偲ばれた。

【金剛寺と伽羅木】 正式名称は、富雙山金剛寺(*)(ふそうざんこんごうじ)。当山は、川口市北東部の有名な「植木の里」安行にあり、曹洞宗(禅宗)に属し、山号を富雙山と称し、入間郡越生町龍穏寺(関三刹)の末寺。境内は約5,000坪(16,500u)全域が川口市指定野鳥の森となっている。約520年前の室町時代明応5年(1496年)に、この地方を支配していた豪族中田安斉入道安行により開創された古刹である。(*:宗教法人 金剛寺の説明書より)
 山門前に、樹齢約500年の見事な伽羅木(キャラボク)(*)が有、市の保存樹林に登録。松類の様に大きく見栄えが良くない為見過ごしてしまう低木だ。地味な伽羅木の姿に、自然と自分や無数の先人達を重ね合わせてしまい感慨深い。現在放映中のNHK大河ドラマ「真田丸」と同年代で、戦乱が長く続いた悲惨な情景を髣髴。伝統ある木造建築物で文化財や宝物類も有、歴史や植木好きの人なら一見の価値があるお寺だと思う。

*:イチイ科の常緑低木。庭に伽羅木を植えると疫病を除くと言われ、古い庭には多数用いられた。新芽が美しく、一年中緑色で成長も穏やかである為、庭造りには重宝される。一昔前、田舎の旧家の庭には年代物の伽羅木が大切に植えられていたものだ。)

 由来によると、当時戦乱の世で中田氏自身も多くの人々を殺傷し、その罪業に毎夜苦しんでいた。たまたま当地を行脚していた禅僧に出会い、その教えに従って吉岡の地に草庵を結び、金剛経を拠所として供養し、その苦しみから救われたという。この縁に依り仏門に帰依し、此地に伽藍を造営。その禅僧(本寺7世節庵良)を開山とし、自らは開基となり、寺名は金剛経にその源を求め開創。
 江戸時代には、寛永19年3代将軍家光公より御朱印10石を賜り、門派10数ヶ寺に及んだ。堂宇は戦後縮小改築されたが、山門は約400年前に構築。桃山様式を取り入れた六足門で市内最古の棟門。又、県史蹟、吉田権ノ丞の墓(植木の元祖)、中世の貴重な史料である経塚がある。又、約200年前、当山19世海牛禅師に依り始められた灸施療が有名との事。
 当日は、故人との別れと同時に、親類、縁者を引き合わせる大切な邂逅となった。小雑誌『禅の友』等を戴き帰宅後に読み、歴史の深淵な情景に思いを馳せた。春の山門傍の桜や新緑豊かな光景、又、秋の紅葉も素晴らしいとの事。最近、葬儀の簡素化が多いが、伝統的な寺院での葬儀も趣が深い。

【最近の出来事】暗いニュースが多い。世界景気の先行き不安増大、原油と株式相場大幅下落、為替円高急進で110円代、日銀史上初の−0.1%金利導入、長期金利が初のマイナス。甘利経済再生大臣の辞任、元野球大スター選手の清原和博の薬物使用逮捕激震。台湾南部の地震(M6.4)で、高層マンション倒壊被害。又、北朝鮮は、1月の水爆実験に続き、ミサイルを発射させ世界に脅威、衝撃が拡大。

 一方、明るいニュースは、サッカーU23日本代表がアジアリーグ優勝、リオ五輪出場決定。NHK大河ドラマ「真田丸」も徐々に人気。又、ゴルフでは、松山英樹が米国ツアーで念願の2勝目。東京都の小笠原島で、日本産カカオ豆でチョコ生産や深海のレアメタル広域分布確認も朗報だ。

 上述した岩手の叔父Kは耳が少々遠いが、「真田丸」のテレビガイドを送ったら、大層喜んでくれた。できれば私も生涯現役を目指し、スマホや新たな工夫、交流が必要と感じた。

2016年2月14日(日) 記

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